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あの時のこと

「……今日、配達に行ってんけど」 「……おん」 「配達先が同じ専門学校のやつのアパートやった」 「……それ、男?」 「おん」 「…………」 「……洋介には言ってなかったんやけど。たいしたことちゃうと思うてたから。そいつに1ヶ月くらい前に告白されてん」 「……は?」 「その場で断って、向こうもあっさりな感じやったからそれで終わりやと思うてたんやけど」 「……どういうこと?」 「なんか……向こうは諦めてなかったみたいでな。俺の家突き止めて、俺を見にきてたらしいねん」 「ちょお待てや。それ、ストーカーやんけ」 「まあ……そんな感じやろうな。それで、俺と洋介が一緒におるとこ見たみたいでな。それに逆上して……その……俺を襲う目的で、偽名使って俺に配達させたみたいやねん」 「…………」  洋介の顔が驚きと怒りを滲ませた表情に変わった。洋介が掠れるような声を出した。 「……亜貴……お前……」 「大丈夫やで。ヤられる前に逃げてきたから。まあ、キスとかはちょっとされたけど」 「…………」 「ほんで、必死で逃げたときにこけてん。擦り傷がいっぱいあるのはそういうことやねん」 「…………」 「そんなことがあった直後やったから、洋介を電車で見かけた時もなんか、こう、今は会いたくない、話したくない思うてもうて」  俺の我が儘やな、そう言って笑って洋介を見た。  すると、洋介が急に体を起こして、亜貴の腕を掴んだ。そのまま力強く抱き締められる。

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