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第39話
「まあいい――。どうやらてめえの意志はどうあれ、コッチの方はヤる気満々みてえだしな? 疼いちまって仕方ねえだろ?」
可哀想だから慰めてやるよとばかりに氷川はくしゃりと瞳を細めると、これ見よがしといった調子で舌舐めずりをしてみせた。
そしてポケットからライターを取り出したと思ったら、いきなりTシャツの襟を掴まれて火を点けられたのに、紫月はギョッとしたように彼を見上げた。
血染めのシャツがジリジリと焦がされていく――
きな臭いニオイと、喉元でチラつく熱さに心拍数がものすごい勢いで再び増加する。
「――ッ!?」
「心配すんな。なにも焼いて食おうってわけじゃねえよ。コイツが邪魔くせえからこうしようってだけ――!」
氷川はそう言うと、焦げて脆くなった箇所からビリリッとTシャツを上下に引き裂いた。
「なっ……!?」
「はは、すっげえ効き目っての? こんなトコまでしっかりおったてて、エロいったらねえな?」
興奮した目つきがギラギラと光を放っている。
言葉通りに胸飾り周りを撫でながら、ゴクリと喉を鳴らす氷川の額には、先程の乱闘のせいでか乱れた黒髪がはらりと垂れて掛っている。それを目にした瞬間に、とある男の印象がダブるような錯覚にとらわれた。
――そうだ、あいつの髪もこれと似たような濡羽色のストレート。
なんでこんな時に限ってヤツのことが思い浮かんだりするんだ……。
そういえばこの前の時もそうだった。ゲイバーで馴染みの男と『好みのタイプ』について話していたあの時も、同じようにあの男の顔が思い浮かんだんだった。
あの男というのは、言わずもがな鐘崎という転入生のことだ。こんな状況の時でさえも彼のことが脳裏に浮かぶだなんて、相当イカれている。そう思うと、紫月は苦笑いの漏れ出すのをとめられなかった。
似たような黒髪の印象の男――
だがそれはあくまで外見だけの話だ。きっと鐘崎というあの男ならば、自分を相手にこんなことをするわけがない。例えこちらが望んだにせよだ。
そう思うと、今、目の前で自分を組み敷いて興奮しているこの氷川のことが、ある種、貴重な存在に思えるような気さえしてきた。
ちょっと視点を変えてみれば不思議なことだ。
別に鐘崎に限ったことではないが、たいがいの男なら同性相手に――、しかも日頃から因縁関係にあるなら尚のこと、そんなヤツを前に興奮欲情するなど有り得ないだろう。
そう、例えこちらが望んだにせよ――だ。
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