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第42話

 不意をつくようなことを言って、この状況から逃れようったってそうはいかないぜとばかりに、氷川は紫月の髪を掴み上げ、睨み付けた。  だが紫月の方は、相も変わらずかったるそうに余裕綽々の薄ら笑いを繰り返す。 「別にケツまくる気なんてねえっての。それよかさ、お前マジでココでヤる気? てめえの自慢の息子――意外にもデケえアレを仲間に披露するってか?」 「ンだと、てめえっ!?」 「……っつーか! それって周りで見てるお仲間の方が気の毒なんじゃねえの? 野郎が野郎とサカるとこなんざ見せられる方の気にもなってみろってのよね」  薬のせいでか整わない吐息とは裏腹に、クスクスと笑いながら、まるで酒に酔ってでもいるかのような調子だ。  紫月の言葉にふと周囲を見上げれば、確かにその通りだというような感じで眉間をヒクつかせている者や、タジタジと冷や汗を拭いたさそうな調子で尻込みする者などがザッと目に飛び込んできた。  まあ、中には本心から興味ありげだというふうでいて、『どうぞ気にせず続けてください』というゼスチャーをしている者もいるにはいるが――  ともかく大半の連中は、半ば引いたような表情で凍り付いた笑みを浮かべているのが現状のようだった。無論、言葉になどおくびにも出さないが、「お前も物好きだなあ」と言いたげに呆れた表情の者もいる。そんな様子に氷川はチッと大袈裟な舌打ちを鳴らすと、 「ンだ、てめえら! 気色悪りィってんなら出て行きやがれ!」  どいつもこいつも気に入らないとばかりに怒鳴り上げ、ふと目をやった先に派手なカーテンらしき大布がぶら下がっているのを気に掛けた。カラオケのステージ用の物だろうか、氷川は勢いよくそれを引っ張ると、仲間たちとの間に御簾をこしらえた。 「ちょっ……! 氷川さん!」  慌てる彼らを一喝、「外で見張ってやがれ!」と顎先をしゃくって追い払う。皆はオズオズとした調子ながらも、先程からの呆れに拍車が掛かったような感じで、誰もが戸惑い気味だ。 「早く出てけっつってんだ! 聞こえねえかッ!?」 「分かった……! じゃあ俺らは外で待ってっから」 「ごゆっくりどうぞだよ」  しばらくして全員が出て行くのを見届けると、氷川は憎々しく口元をひん曲げてみせた。 「これで邪魔者はいねえぜ? ゆっくり楽しましてもらおうじゃん、なあ一之宮? ま、案外ちゃっかりてめえの思惑に引っ掛かっちまったって言えなくもねえけどな? ホントはあいつらの前でゴーカンしてやるつもりだったってのによ!」  ま、いいかとばかりに舌舐めずりをしては、うれしそうに見下ろす瞳がニヤけている。

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