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第43話

「さっきはよくも好き勝手抜かしてくれたな? ああ言や、俺が引くとでも思ったわけか。けど残念だったなぁ?」  ギュッと下着越しに敏感な部分を掴まれて、紫月はビクリと腰を浮かせた。先程嗅がされた薬のせいでか、思考とは裏腹な反応を見せている自分自身が恨めしいと思えども、こればかりはどうにもならない。 「すっげ、ビンビンおっ勃っちまってんぜ?」 「……っ……はっ……!」  快楽にまみれたいと待ち望んだ自身の熱が、水を得たように氷川の指先に弄られる感覚を求めてやまない。  ちょっと触れられただけなのにゾクゾクと背筋が疼いて、紫月は思わず唇を噛みしめた。 「なあ一之宮さー、そういや俺も覚えてる。つか思い出した! てめえが埠頭の倉庫で言ったこと――」 「……は……? なに……が……?」 「お前、あン時はっきり言ったよなぁ? 俺のをしゃぶってやろうかとか何とか。普通、野郎がそんなこと抜かすかよ? 要はてめえが普段からそーゆーことしてるって暴露しちまったってことでオッケ?」 「何……言って……んだ、てめえ……」 「お前こそそっちの趣味だろ? 違うか?」  まるで勝ち誇ったかのような不敵な視線で氷川が笑うのを、苦々しげな思いで見上げていた。 ◇    ◇    ◇  同じ頃、氷川に追い出された連中らは、狭い店の入り口にたむろし、少々ふてくされ気味でいた。  室内にいた時よりも輪をかけてけたたましく響いてくるカラオケの音声が、何とも耳触りで仕方ない。もともと店に入りきらないぐらいの大人数が一挙に外へと押し出されたせいで、居場所が無く、路地脇に追いやられる者も殆どのこの状況。  大の男が一人通れるのがやっとの狭い路地には、周辺の店の残飯やら何やらが所狭しと転がっていて、どこからともなく漂ってくる生ゴミの異臭や排気口の生暖かさにも思わず顔をしかめたくなる。  第一、こんなところに学ラン姿の大勢がたむろしていたのでは、目立って仕方がない。口うるさい地元の連中が、節介にも警察や学園へ通報しないとも限らない悪条件だ。  誰しもが愚痴のひとつもこぼしたいといった表情で互いを窺い合っていた。 「……ったくよー! 氷川の物好きにゃ困ったモンだよなー? 一之宮をボコるってから、ちったー楽しみに集まってんのによ」 「そうそ! まさかホンキで犯っちまうつもりってか?」 「はっ、気違いめ! 野郎なんかひん剥いて何が楽しいんだか! 正直、気色悪りィったらねえぜ」  仲間内でも案外リーダー格の連中がそんなことを口走れば、その他の者たちも同意だというように相槌ちをかます。

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