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第45話
「で、何よ? まさかマジでヤっちまってるとか……そーゆーの?」
「さあな、知らねえ。見ての通り、俺ら追い出されちまってんだしー! けど、一之宮の野郎の服、ひん剥いてたから半ばマジなんじゃね?」
「げぇー、野郎とサカるってどーゆーの? つか、まさか挿れたりすんの? ……って、どこに挿れんだよ……ってなー!」
「バーカ! 気色ィこと想像させんなっ!」
ギャハハハと大爆笑が起こり、一時その場が盛り上がった。帰るに帰れないようなこんな状況では、氷川も含めて笑いのネタに祭り上げるぐらいしなければ気がおさまらないといったところなのだ。皆はしばし好き勝手に、日頃のうっぷんを口にしながらちゃらけていた。
そんなはしゃいだ気分を一気に覆すような低い声が後方から聞こえてきたのはその直後だった。
「おい、お前ら。ちょっと訊きてえことがあるんだが――」
物静かで落ち着いた雰囲気の、いわばイキがりやハッタリとは無縁のような丁寧な印象ではある。だが、相反して地を這うような低音の声音に、皆は一瞬ギョッとしたようにそちらを振り返った。
もう薄暗くなった闇の中に一人の男の姿が浮かび上がる。彼の背後からはスナックのネオン看板がチカチカと方々で瞬き光って目に眩しい。ひょっとしてよからぬことをしているんじゃないかと勘ぐった地元の大人たちが、どこかに通報でもしたというわけだろうか。瞬時にそんな想像がよぎっては、誰もが一瞬身構えるように視線をギラつかせた。
てめえにゃ関係ねえ――とばかりに意気込んで鋭い視線を飛ばす。だがすぐに、声を掛けてきた男が自分たちと同じ学ランをまとっていることに気が付くと、今度は別の意味で凄むようにその男を取り囲んだ。
よくよく見れば真新しそうな制服がきちんと着こなされたその様子に、瞬時に自分たちとは畑違いなことを嗅ぎ分ける。見るからに優等生そのもののような出で立ちの男に、『イイ子ちゃんがこんなトコに迷いこんじゃってどーしたの?』とでも言わんばかりだ。皆は口々に薄ら笑いを浮かべながら、顎をしゃくって男を突っつき始めた。
「ありゃ? よく見りゃコイツの制服!」
「あー、ホントだ! 律儀に襟章まで付けてやがらぁ! これって四天じゃね?」
「ってことはてめえ、四天のヤツかよ? ひょっとして一之宮の知り合いだったりして?」
「はあっ!? そんじゃ、まさかヤツを助けに来たってかー!? なーんてな! ンなわきゃねーべ!」
どうやってバレたのか、まさか加勢にでも来たというわけか。
だがどう見ても『一之宮紫月』とも『自分たち』とも雰囲気の違い過ぎるその男に、一同はハナから彼をバカにしたような調子で取り囲み、からかわずにはいられないといったふうに大爆笑をしてみせた。
◇ ◇ ◇
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