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第47話
「俺? 俺はいるぜ、オンナ。こっちから頼んだわけでもねえのに取っ換えひっかえ、ゴロゴロ寄ってくるし。ヤるのに苦労したこともねえしなー」
「……っの、最低野郎が……!」
「最低結構! そーゆーてめえはオトコにゃ苦労したことねえってか?」
ニヤけまじりにダラダラと罵倒のし合いを繰り返し、だがその直後に再び唇を重ねられたと思ったら、今度は容赦なく、ねっとりとした舌先を口中にねじ込まれて、おまけにむんずと髪を引っ張れたまま逃げられずに、紫月は苦しげに瞳を歪ませた。
さすがに女に不自由していないと自負するだけあってか、しつこいくらいの濃厚なキスに意識が揺さぶられそうになる。加えて素肌を撫でる指先が固く突起した胸飾りを焦らすようにまさぐる感覚は絶品で、思わず嬌声がこぼれておちた。
「……っん、……っあ…っはっ……!」
もう我慢できそうもない。
堪えていた嬌声を面白がるように、氷川は指の腹でしつこくそこだけを弄ると、濃厚なキスを解除して、もう片方の胸飾りをついばむように舐め上げた。そして彼の半ば勃ち上がりかけた雄をグリグリと擦り付けるように腰元をくねらせては、まるでどうだと言わんばかりにニヤけまじりの吐息を荒くする。
「……んっ……あ……ふっ……っ! っ……」
堪え切れずに声が漏れ出してしまうのを抑えられなかった。下着の中で自身の蜜液が濡れそぼっていくのをはっきりと感じ、と同時に氷川の硬さがどんどん増していくのもしかり――
俺はどうしてこうなんだろう――
相手が誰でもこんなになって。
無理強いされているのにしっかりその気になって反応して、飢えて、求めて、溺れていく。
何てバカな野郎なんだろう。
どうして俺は――
本当はこんなことしたいんじゃない。
心から望んでなどいない。
なのにどうして――!
情けなくて泣きたくなる思いを堪えるように唇を噛みしめた。
そうしていないと次々と漏れ出す嬌声をとめられそうにないからだ。
(こんなヤツを相手に冗談じゃないってのに……!)
そんな思いとは裏腹に、ふと視界に飛び込んできた氷川の黒髪の乱れに気が付けば、またしても一人の男の顔が思い浮かんだ。
ああそうだ、あいつもこれと似たような濡羽色のストレート。
もしもコイツが――今、目の前で自分に興奮しているこの男が『ヤツ』だったとしたら……!
淡い幻想が叶わない甘夢とむごい現実の両方を同時に突き付けてくるようだ。
どうせなら甘い夢に思いをはせたとて何が悪い。自らの首筋で揺れるこの黒髪がヤツのものだと思うくらい許されるだろうよ。
そう、これがあの男の……鐘崎の髪だとしたら、いったいどんな心地になるのだろう。
そんな思いがグルグルと頭の中で交叉する。紫月は無意識に、目の前で揺れている黒髪に手を伸ばしていた。
◇ ◇ ◇
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