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第49話
「……っそ! すっげ、キツっ……! ここまできて拒否ってんじゃねえよ……! てめえだって、も……欲しくてたまんね……っだろが!」
「……ッ、誰……が……」
「力、抜けって……んだよっ! 強情張ってねえ……で、言うこと……聞きやがれ……ッ!」
脅し文句も欲情が先立って、凄みよりも甘さの方が勝るような声音に耳元さえも犯されていく。耳たぶを甘噛みされて舐められて、そのまま首筋を吸われながら抱き締められる密着感がたまらない。
背中から抱き竦められ、胸飾りを指の腹で撫で回されるごとに、抑えきれない嬌声がソファの布に吸い込まれていく。
知らずの内に完全に自身を貫いたらしい氷川の雄の感覚に、身も心もそれを貪りたがるように締め付ける。
意志とは裏腹に、今自身を抱き包んでいるこの男とより一層淫らに絡み合いたいと疼き出してしまうことが驚愕だった。
脳裏にあるのは淡い想いを抱く一人の男の顔だというのに――
『彼』の顔がおぼろげに浮かんでは消え、また浮かんでは歪み、を繰り返す。
ああ鐘崎――
もしもこれがお前だったら、なんてな……。
隣の席で袖が触れ合っただけでドキドキと頬が紅潮するような甘い想いが、氷川によってもたらされた欲情をきっかけに激しい想いへと変わっていく。
どんなふうに思われたっていい。気色悪がられても、引かれても嫌われても構わない。俺がこんなことをしたいと思うのはお前だけ。
そう、お前とだけなのに――
「……っん……っ……はっ……鐘っ……か……っ!」
すがるように掴み取ったソファの布地が目の前で霞んでゆく。
別の男に貫かれながら、無意識の内にあふれ出す唯一人の名前を、紫月はもう抑えることができなかった。
「おい、それやめろ」
突然の氷川の不機嫌な声音で紫月はうっすらと瞳を見開いた。
「……何……?」
「一応は俺とヤってる最中だってのによ、他の男の名前なんか呼んでんじゃねえよ。マジ萎えるっての!」
他の男の名前だ――? 氷川の言いたいことがよく分からない。
「俺はムードってもんを大事にしたい主義なの。つか、金田って誰よ! てめえの男の名前か?」
「……?」
「お前のオトコなんだろ? さっきから金田、金田って呼び続けてんぜ?」
「――ッ!?」
朦朧とする意識の中で、それでもギョッとしたように、紫月は背後の氷川に視線だけを向けた。
「何だよ、まさか自覚ねえとか? それとも無意識にそいつに助けを求めてるってか?」
「……違ッ……!」
「案外情けねえのな、お前って。そんで四天のトップってさ。聞いて呆れるっつーか、名折れもいいとこだよな、一之宮? ま、こんな状況じゃ無理もねえか?」
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