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第50話
ニヤけまじりの声音が耳元を撫で、だがそれとは裏腹の乱暴な勢いで、いきなり腰元を鷲掴みされたと思ったら、そのままグン――と突き上げられた。
「……う……ッあ…ああっ……ッ!」
これ以上ないくらいまで深く突き抜かれて、身体が裂けそうに思えた。腹の中どころか、内臓のすべてをえぐり出されるかと思うくらいに激しく乱暴なピストンが容赦ない。と同時に、薬によってもたらされた非情な快感に意識をもっていかれそうになった。
「や……めろッ……放ッ……うっ、あぁあッ……」
ソファの布地をきつく掴み上げ、腰を浮かせて背筋をのけ反らせ、声にならないような悲痛な叫びが狭い部屋にこだまする。ついぞ射精感に耐え切れずに白濁があふれて、薄汚れたソファを濡らした。
その瞬間にこみ上げた言いようのない感情が、涙という形になってボロボロと紫月の頬を伝って落ちた。
番格だのトップだのともてはやされ、イキがって格好をつけてきたくせに何てザマだろう。情けなくて、みっともなくて、悔しくて仕方ない。だがそれ以上に、今は理由もなく泣いてしまいたい気分に駆られていた。
対番といわれる氷川に全面的に屈服させられ、最も悲惨な形で身も心も踏みにじられてしまった。その事実も無論だが、それより何より堪らないほどの不安感が全身を揺さぶるようなのだ。
それは切なくて悲しくて、恐怖ですらあって、何故そんな気持ちになるのか自分でも不思議なくらいだった。例えて言うならば二度と手中に戻らない大切な何かを失くしてしまったような、ひどい喪失感が全身にまとわりついて離れない。それらがあふれてやまない涙という形となって、紫月を苛んだ。
そんな様子に氷川の方は、自らも絶頂が近いのを我慢しながら、意外だというように口元をニヤつかせていた。
「……ッ、たまんねー……ッ! まさかてめえの泣きっ面が拝めるなんて思ってもなかったよ。つーか、意外過ぎてヤべえっての? ……んな、可愛いくされっとさ、まかり間違って惚れちまいそうー、なんてな?」
途切れ途切れの言葉の合間に、荒い吐息が混じって耳元を浸食していく。
ズン――と、重みを伴った鈍い動きと、激しく勢いのあるピストンが交互交互に繰り返されて、氷川の到達の近いことを覚えさせる。それとほぼ同時に飛び込んできたのは非情な台詞、
「……ッ、くッ……なぁ、断わるまでもねーけどぉ、中に出しちまうぜ……?」
首筋にぴったりと這わされた唇が濃厚な愛撫を繰り返しながらそうつぶやく。
観念せざるを得ない自らの状況に、紫月は唇を噛みしめた。
◇ ◇ ◇
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