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第51話

 男同士の――こんな行為が初めてというわけじゃない。  遠慮も配慮もなく、自らの中で相手が達するのが初めてというわけでも――ない。  すべて体験済みのことだ。誰かと身体を重ねることに左程の罪悪感も持たぬまま、適当な快楽に身を委ね、自堕落に遊んできたのは他ならぬ自分自身だ。たまたま相手が因縁付きの氷川だというだけで、行為そのものだけでいうならば格別に憂うほどのことでもなかろうと、頭の中では重々分かっているはずなのに、この脱力感はいったい何だろう。呆然とそんなことを考えながら、無気力なままで紫月はただただ放心していた。 「思ったより早くイッちまったな? 俺もお前も……。ひょっとして俺らってカラダの相性はいい方なのかもな。この際、今までンことは水に流して、イイお付き合いってのもアリじゃねえ? もちろんヤるだけのカンケイってことだけどー」  ベラベラと耳元に入ってくるうっとうしい台詞にも反応のひとつすら儘ならない。未だ抱きすくめられたままで、腹のあたりには自らの放った欲情の痕がベットリとして気持ちが悪い。背中にのしかかっている男の重みにも倦怠感でいっぱいだ。  だが振り払う気力など、とうにない。ただ黙ってこの男が自分を解放してくれるのを待つしかできずに、紫月は呆然と視線を泳がせていた。  そんな折だ。  突如、カーテンの向こうで騒々しい物音がしたと思ったら、次の瞬間、間髪入れずに氷川の仲間らしき男が飛び込んできた。どうやら酷く焦っている様子だ。 「氷川さんッ……! ひっ……かッ……うわっ、ぐあー……ッ!」  仕切りにしてあった分厚いカーテンを引きちぎるようにしながら、その男がこちらへと倒れ込んできた。さすがにギョッとなり、無意識の内に全裸の身をかばうように肩を丸めた。驚いたのは氷川も一緒だったろう、 「いきなり何だってんだっ……!」  彼がそう怒鳴った時には、既に仲間の男が目の前で意識を失い、倒れて床に転がっていた。そんな様子に、氷川はもとより紫月も同時に息を呑む――。その氷川とて、ズボンが半分脱げかかったままの半裸状態だ。しかも情事の直後とあっては、咄嗟には思考が回らないのだろう。いったい何事だというように、眩しいくらいのダウンライトの下に転がっている男を凝視した。  これには紫月よりも氷川の方が焦ったような面持ちで、素早く立ち上がると、とりあえずはズボンのファスナーだけを引きずり上げて、上半身は裸のまま身構えるような体制で扉口に目をやった。そこへもう一人の仲間らしき男が、別の誰かに引きずられるようにして現れた。

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