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第63話

 鐘崎の愛撫は、普段の彼からは想像し難いくらい熱くて、そして強引でもあった。まるで欲しくてたまらないといったふうにも感じられるのは、やはり都合のいい思い込みなのか――頭の隅でそんなことを巡らせながらも、紫月の身体は悦びで震えていた。仮にし今一時だけの夢でも構わない。鐘崎のこの欲情が、単なる気の迷いでも構わない。紫月は身体全身で『彼』のもたらしてくれる記憶を刻み込もうとしていた。 「……紫月……」  聞こえるか聞こえないかのような低い声が、愛撫の隙間を縫って何度も繰り返される。袷を剥がれるついでに右側の胸の突起を指の腹で撫でられて、紫月は大きな枕の上でビクリと肩を揺らした。セフレの相手にされるのとは若干勝手が違う愛撫の手順に、未知の欲情が顔を出す。  そういえば彼は確か左利きだった。いつも右隣の席にいる彼が黒板を写し取るのは左手だ。そんなことを思い出せば、より一層胸が疼いてならない。  そうしている間にも首筋から鎖骨へと続けられる愛撫は絶え間なくて、それは次第にもう片方の左側の突起を絡め取る。唇全体でしっとりと包み込むように軽い口づけが幾度も幾度も繰り返される。次の瞬間には尖らせた舌先で乳輪をなぞるように弄ばれて、紫月は柔らかな茶髪をおしげなく枕に擦り付けてのけ反った。  そうしてしばらくは舌の動きだけで胸飾りを攻められ続けて、なるべくならば我慢しようと抑えていたはずの嬌声があふれ出す。胸元を唇で愛撫すると同時に、彼の利き手の方がそろそろと腹をまさぐり、まるで抱き包むように腰元に回されるのを感じた。  既に濡れそぼっているのが分かる自身の雄は、これ以上ないくらいに天を仰ぎ、覆いかぶさっている鐘崎の脇腹辺りに時折触れる感覚が分かる。こんなに欲情しきってしまって恥ずかしいと思う反面、早く触れて欲しくて堪らないのも事実で、紫月は悶えた。  いっそこの際、自分で慰めてしまいたい。そんな思いのままに無意識に泳がせた手がふいに掴まれ取り上げられて、何ともいえないタイミングにもっともっと欲情を煽られた。 「自分でするなっつったろ?」  上目使いの彼の表情が例えようもなく色香を滲ませていて、見つめられるだけで達してしまいそうなくらいだ。指の腹でそそり勃った雄の裏筋を撫で上げられれば、思わず「ああっ……!」と大きな嬌声が漏れ出してしまった。きっとみっともない程に滴っている蜜液ごと弄られて、激しく首を左右する。紫月はまたもや枕の上で薄茶色の髪を乱した。 「鐘崎……っ、待っ……! 俺、氷川に……あんなことされたばっかで汚ねえ……からッ……!」

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