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第64話
ここまできて今更な気がするが、例えば抑制力となるような何かを口にしないと怖いくらいの欲情の感覚が居たたまれなくて、無意識の内にそう訴えた。
「それに……俺ッ、他にも……その……んあっ……!」
他にも遊んでいるから、と言い掛けたその言葉を遮るかのように、いきなり蜜液の滴る先端を舌先で強く吸い上げられて、再びのけ反らさせられる。途方もなく押し寄せてくる波に流されつつも、紫月は思い付くままの感情を言葉にした。
「……ンなとこ、口でなんかすんなっ……! 俺、お前に……こンなことしてもらえるような資格ねえし……いろんな奴と遊んでて汚ねえんだ……し」
「…………」
「だからそれ、もう……やめ………っ」
「――だったらもうそんな遊びはやめろ」
「……え……?」
「二度と他の野郎なんか相手にすんじゃねえ――!」
「え、あの……やっ……うぁ……鐘……っ! 鐘崎……ぁああッ……!」
もう目の前までやってきた射精感に唇を噛み締める。まるで夢じゃないかと思わせる程に、信じ難いような鐘崎の台詞にもゾクゾクとさせられた。
◇ ◇ ◇
そのまま射精し、荒い吐息を整える余裕もなく視線をやれば、そこには少し眉根をしかめ気味にした鐘崎の整った顔立ちがこちらを見据えていた。
深い彫りが印象的な、くっきりとした黒い瞳にじっと見つめられ、もうそれだけで頬が紅潮するのをとめられないのがはっきりと自覚できる程だ。いつまでたっても視線を反らせてもらえないことで、心拍数もおさまらない。ただじっと見つめるだけで格別には何も言葉を発そうとしない、そんな扱いにも戸惑わされるばかりだ。
紫月はどうしていいか分からないまま、急に込み上げてきた羞恥心に堪えられずに、顔を背けようと視線を泳がせた。すると、それを許さないといったように横を向きかけた頬を両の掌で包み込まれて、と同時に更に信じ難い台詞が耳元をくすぐった。
「大して好きでもねえ相手とセックスなんて、こんりんざいするんじゃねえ。二度とそんな遊びしたら……」
「……したら……なに?」
真剣そのもので、怖いくらいに食い入るように見つめられながらそんなことを言われて、ますます困惑の渦中に突き落とされる。まるで時がとまってしまったかのように、ほんの僅かのこの時間が永遠にも感じられた。
「二度とそんなことしたら、俺はもう……正気じゃいられねえ」
「……え?」
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