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第65話

 どういう意味だと訊く余裕もなく、次の瞬間には頬から滑るように移された大きな掌に乱れた髪を掻き上げられながら唇を塞がれた。そして先刻以上に淫らで濃い口づけに捉えられれば、もう何をも考えるどころではなく、頭の中が真っ白になっていった。  冷静に考えれば、鐘崎が何を思い、何を伝えたいのかが漠然とだが理解できるような気もする。いや、考えるまでもなくそれは『好意』以外のなにものでもない気がするのだが、それこそそんな都合のいい展開など有り得るわけもなかろうと、もう一人の自分が否定する。しかも催淫剤に翻弄されたこんな状態も手伝って、まるっきり夢の中だ。それも異次元だ。ふと、そんなことで呆然となっていた思考を引き戻したのは、自らの脇腹を伝った欲情の痕の感覚だった。  放った白濁がタラタラとシーツの上へと流れ落ちるのを感じて、紫月はハッと我に返った。 「ごめ……っ、俺、シーツが……汚しちまうから……!」  焦って身をよじったのは本能で、決して悪気があったわけじゃない。恥ずかしさをごまかす為の反射的な言葉で、決して彼のことをはぐらかしたわけでもない。だが鐘崎にはそうは伝わらなかったのか、あるいは逆に拒まれたふうに受け取れてしまったわけか、不意に傷付いたように瞳をしかめたように感じられたのは錯覚だろうか。髪に深く絡んでいた指先が一瞬硬直したように止まり、濃厚に合わせられていた唇までもが冷たく血の気が引いていくように感じられて、紫月はますます焦ってしまった。 「や……っ、違ッ……そうじゃなくって……俺、別にお前が嫌とかそんなんじゃ全然なくって……」 「…………」 「や、えっと……何言ってんだ俺……? とにかくお前にこんなことさして申し訳ねえっつーか……とにかく今のナシ! 全然意味違えし……」  まるで意味不明な言葉が上手くまとまらない。第一、何故こんな言い訳をしているのだろう。それさえも分からなくてしどろもどろだ。 「何が違う?」 「や、別に……俺は……」 「まだ治まんねえんだろ……?」  そう訊かれて視線をやれば、未だに勢いの衰えていない自身の分身が、鐘崎の腹の辺りに触れているのに気が付いて、ギョッとしたように頬を染めた。  ああ、なんだ。そういうことなのか――  単にこちらのことを気遣って、この男はわざとこんな行為をしてくれているだけだったというわけか。つまりは悲惨な目に遭ったことに対するせめてもの慰めにというやさしさなのか、彼もこんな行為に『ノってくれているだけ』という可能性が瞬時に脳裏を過ぎる。そう考えたら恥ずかしさに拍車が掛かった。と同時にどうしようもない憐情が込み上げる――。自らに対する蔑みをも伴った憐れみだ。  何、期待してたんだ俺――

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