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第77話
「で、俺に話って何?」
少し風の強い昼休みの屋上で、金網を背もたれに菓子パンの袋を開く。目の前にいる徳永の肩越しには、遠目に鐘崎と剛、京といったお馴染みの面子がいつものように弁当を広げながらこちらを窺っているのが見える。
「つーか、お前昼飯は?」
特にはそれらしい用意のない下級生の様子を半ば怪訝そうに窺いながらも、紫月はぶら下げていた袋の中にあるもうひとつの菓子パンをチラ見した。
「も一個あるけど、食うか?」
なかなか話を切り出さない男にしびれを切らしたのか、はたまた何とも手持無沙汰の雰囲気が居づらいのか、或いは元来人が良い性質なのか。とにかくそんな気遣いをしてくる紫月を少し驚いたように見やりながら、徳永はようやくと口を開いた。
「ありがとうございます。けど、俺は飯はいいっスから……」
「ふん、なら早く本題に移ろうぜ。話って何だよ」
「はい、それじゃ遠慮なく……。あの、一之宮さん……」
「あ?」
剛の買ってきた購買の紙パックコーヒーを飲みながらそう訊き返した紫月は、その直後の徳永の問い掛けに思わず喉を詰まらせてしまった。
◇ ◇ ◇
「ぶはッ……! てめ、今何つった……」
「だから……あの人のこと好きなんですかって訊いたんですよ」
あの人――とはどうやら鐘崎のことを指しているらしい。あまりにも唐突過ぎる質問に、赤面を通り越して唖然とさせられてしまった。
「……ッのなー! いきなり何だ、てめえは! 何で俺が『野郎』のことなんか好きンなんなきゃいけねーんだよ!」
いくら図星でも、殆ど初対面も同然の下級生に対して正直に暴露してやるいわれはない。紫月は当たり前の返事を当たり前の態度で返してみせた。
「つーか俺、一応お前の先輩だぜ? (学年)上に対してそーゆージョーク言うかね? つか、ジョークにしてもブラック過ぎだし!」
「俺はジョークなんか言ってるつもりはないですよ。だってあんた、ここんとこずっとアイツと一緒じゃん。ガッコ来んのも帰んのも一緒だし、片時も離れてんの見たことねえっつーか……」
「あ……ンなー、そんなんダチなんだから当然っしょ? てめえだって誰かとツルんで帰ったりとか、普通にすんだろそーゆーの!」
わざと大袈裟に吐き捨てる。だが徳永はもっと驚くようなことを言ってのけた。
「あの人、鐘崎さんっつったっけ? 転校生なんだろ? あの人がアンタの騎士気取りみてえになったのって、桃稜とのイザコザがあってからだって聞いたけど」
「はぁ!?」
「あんた、桃稜の奴らに袋(叩き)にされかかったんでしょ? そん時にわざわざ助けに行ったっていうじゃん、あの人」
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