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第78話

 そんな話をいつ何処で聞いたというのだ。鐘崎自身が触れ回るはずもないし、剛や京だって同じだろう。あの時にあの場にいた桃稜の連中を除いては誰も知り得ないはずのことなのだ。 「てめ、何を根拠に言ってる……? つーかそんな話、どこで仕入れてきたわけ?」  少々蒼ざめたような口調で、声のトーンも一段階低めに放たれた言葉に、徳永は僅かに眉をしかめた。 「心配しないでください。四天じゃ俺以外知らねえし、言いふらすつもりも更々ねえよ。あんたがフクロにされようがされまいが、事実なんか知ったって俺には何の得にもならねえし」  だったら目的は何だというのだ。徳永の意向が掴めずに、紫月は戸惑った。 「ただ俺が知りてえのはあんたとあの鐘崎って人がダチを越えた間柄なのかってことです。率直に言えば、付き合ってんのかってこと」  ずいぶんとまた開けっ広げなことを投げ付けてきたものだ。だが、大胆過ぎるともいえるその質問のわりには、徳永の表情があまりにも真剣で、ともすれば思い詰めたようにも受け取れることから、紫月はますます戸惑わされてしまった。  一体この男は何を言わんとしているのだろう。まるでワケが分からない。ただひとつ言えるのは、彼が冷やかしや侮蔑からこんな問い掛けを寄こしているのではないということだけは、何となく理解できる気がしていた。困った紫月は、逆に開き直ることで彼の意向を探ることを思い付いた。 「付き合ってる……っつったらどうなワケ? ヤツと俺がダチを超えた間柄だったらどーだってんだよ?」 「付き合ってんスか?」 「だからー! もしそうなら何だって訊いてんのは俺の方なんだけど」  少々苛立ち気味にまくし立て、勘に障ったように又ひとたび紙パックのコーヒーをあおる。まさかもう一度喉を詰まらせられるようなことを訊かれるとは思いもしないままで、紫月は一等深くそれを吸い込んでしまった。 「なら、もうセックスとかもしたんですか?」 「――――ぅッ! ぶはッ……ゲホッ……」 「もうアイツとヤっちまったのかなって……思って」 「あ……ッンなー! てめ、冗談にもホドがあるっつーか……」  ようやくの思いで咳き込みを抑え、これ以上は付き合っていられないとばかりにヒクヒクと片眉を吊り上げてみせた。だが徳永は左程焦った様子もなく、それどころかもっと淡々と、しかもとんでもなく的外れな台詞を並べて寄こした。 「実は俺ン家、店やってるんスよ。市内にも一件構えてるけど、本店は都内の繁華街にあって、隣町にも二件程……」 「あぁ!?」  それが何だというのだ。今、てめえの家の稼業なんか関係ないだろうとばかりに睨みを据えた紫月を横目に、徳永は続けた。

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