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第80話

「ウチ(店)に来ないって……要はあの鐘崎っていうカレシができたから、もうゲイバーで男漁りする必要もねえってわけですか? で、今度はそのカレシとらぶらぶ登下校かよ」  いちいちつっけんどんな態度で、しかも遠慮のかけらもなしにズケズケと突っ込まれて、さすがの紫月も眉間に剣を立てた。 「おい、さっきっから聞いてっと随分トゲのある言い方してくれてるけどよ、他に用がねえなら――」  もう勘弁してくれねえか、そんな意味合いを込めて視線だけで彼を睨み付けた。  一応この学園の『頭』と言われている紫月を不機嫌にさせ、面と向かってガンをくれられた。普通の下級生ならば、この辺りで引き下がるのが当然だろう。だが、まるっきり尻込みをする様子もなく、それどころかもっと辛辣といった調子で徳永という男は先を続けた。 「あんたさ、嘘か本当か知らねえけど、今年の桃稜との対番勝負で向こうの『頭』の氷川ってヤツにえらい条件食らったって話じゃないですか」 「は?」 「ケツ掘らせろとか何とかさ……。それだけなら笑い話で済むかも知れねえが、実はてめえのクラスメイトに本命の彼氏持ちだったなんてさ。もしもそんな噂でも広まったら、冗談で済む問題じゃなくなるんじゃねえの?」  本命の彼氏というのは鐘崎のことを言っているのだろう。だが、何故この男がそこまで執拗に鐘崎との関係について食い下がって来るのか、正直理解に苦しむところだ。単に男同士のそういった間柄を嫌悪しているというだけではなさそうに思える。それを肯定するかのように、徳永という男はもっと突飛なことを言ってのけた。 「ハッキリ言わせてもらいます。もっと自重……いや自粛してもらえませんか?」 「――は?」 「だってそうでしょ? あんた、一応四天の頭とか言われてんだからさ、あんまり外れ過ぎたことされると迷惑なんスよ」 「……迷惑って……」 「俺ら後輩にとってもそうだし、因縁関係にある桃稜の奴らにだってあんたがゲイかもだなんて知れたら、興味本位で何しでかすか分かったもんじゃねえんだし……!」  苛立ちまじりに、というよりもまるでまくし立てるように早口でそこまで言って、だが徳永は『そうじゃない、本当はこんなことを言いたいわけじゃない』とでもいうように、打って変わって今度は自己呵責気味に顔をゆがめて見せた。  突っかかってみせたと思えば後悔したり危惧したり、コロコロと表情を変える忙しい男だ。一体何を言いたいのか、さっぱりワケが分からないのはこちらの方だ。しばし紫月はそんなことを思いながら、黙って目の前の男の様子を窺っていた。 「すいません、俺、別にあんたを責めてるとかじゃないんス。あんたの弱みを握って脅してやろうとか、誰かに言いふらそうとかそういうんでもない。だから……その証拠ってワケじゃないですが、自分のことも打ち明けます。俺の親父も……そうなんです」  突如とした告白に、紫月は不思議そうに彼を見やった。 「――?」 「俺の親父……親父っていうか、見た目はもうお袋って言った方がいいくらいなんスけどね」 「――!?」

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