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第91話

 やっとのことで解放されたキスと引き換えに、まるで『いいか?』と訊くように、熱く熟れた視線がそう問い掛けてくるようだった。と同時に腰元を引き寄せられ、ギュッと抱き締められ、それは鐘崎の思いの激しさを物語ってもいるような強い抱擁に感じられた。  一見、クールで感情を表に出さない印象の強いこの男が、こんなにも熱いものを秘めているだなんて――しかもそれが向けられているのは自分自身だ。  出会ってからずっと心の中で求めてやまなかった思いが、今、目の前にある。嬉しくてたまらない気持ちそのままに、紫月は自らを抱き締めている腕の中へとすべてを預けるように包まった。  逸り、もつれ合うようにしながら、見事な程の寝具に倒れ込んで身体を重ね合い―― 「……鐘崎……っ、だいじょぶなの……か? 誰か……他にも家の人とか……」  先程会った『源さん』以外にも使用人が数人はいそうなこの邸の様子を気に掛けるように、紫月はそう訊いた。  だがもう、おいそれとは止めらない程に欲情をきたしている互いの熱は引きそうにもない。  こんな状態にも関わらず、恥じらい戸惑うように視線を泳がせ周囲を気に掛ける――そんな紫月を心底愛しげに抱き締めながら、鐘崎は微笑んだ。 「何も心配するな。ここへは誰も来ない」  低く、甘く、色香の漂う声を耳元に落とし、甘噛みしながら首筋から鎖骨へと口付ける。 「っ……っあ……マ……ジ……?」 「ああ、だから安心しろよ」 「っ……ん……うん、……はぁ……鐘っ……」  しっとりとした厚みのある、形のいい唇が肌を撫でる度に、万感こみ上げるような紫月の甘い嬌声がシーツの海に揺らいで落ちた。  もつれ合うように服を脱ぎ、これ以上密着するところが無いくらいに肌を絡め合う。素っ裸になった互いの楔を擦り付け合えば、たまらない愛しさで、すぐにもとろけて果ててしまいそうなくらいだった。 ◇    ◇    ◇

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