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第101話
ある程度名を成した不良連中というのは、とかく、自らと同等もしくはそれ以上と認めた者しか相手にしないのが暗黙の道理だ。ましてや氷川ほどの男が下っ端と思われる者に手出しなどするだろうか――少々疑問だという様子の剛と京をよそに、焦り口調でクラスメイトたちは紫月にすがった。
「実は俺らも一緒に捕まったんだ! 茂木と川田は単なる人質だ……。返して欲しけりゃ、紫月一人で迎えに来いって……」
それまで黙って事の成り行きを窺っていたらしい紫月が、僅かに眉をしかめ、口を開いた。
「……で、場所は?」
静かだが短く発せられる声音は低く、助けを求めて遣わされてきた二人にとっては凄みさえ感じられるくらいだった。だが、実のところ、そう余裕があるわけでもない。先だっての暴行騒ぎのことを思えば、氷川相手に単独で乗り込むとなると、それ相応の覚悟が必要だからだ。ましてや今日は鐘崎が出掛けていて留守だ。
ザッとそんなことを巡らせながら、だがしかし囚われた連中を放っておくわけにもいかずに、紫月は苦々しく表情を歪めてみせた。
「ば……場所は河川敷に出る手前の送電線が並んでる広場があるだろ。あそこへ行くのに通る一本道の途中くらいにあるバカでっけえ倉庫だ」
必死で説明する彼らに、「それって確か……前にクリーニング屋か何かの工場だったところか?」剛がそう訊いた。
「……かも知れねえ。何か、やたらと作業台みてえのがいっぱいあって、錆びたアイロンとかも転がってたし」
その倉庫なら紫月も見知ってはいた。この前、氷川から呼び出されたスナックの跡地のような場所と比べれば、比にもならないくらいの広い工場だ。万が一、あの時のような多勢に無勢という状況でも、あれだけの広さがあれば立居振舞いに苦労はしないだろうか――桃稜勢が何人までならこちらに勝機があるだろう。そんな算段を脳裏に描きながら、紫月は今しがた脱いだばかりの学ランを手に立ち上がった。
「捕まってんのは茂木と川田の二人だな? 奴らの怪我の程度は? 相手の桃稜の連中は何人くらいいた?」
無表情のまま、仕入れておきたい情報だけを尋ねる。だが彼らから返って来たのは、意気込んだ気を削がれるようなものだった。
「怪我は……顔と腹に二~三発軽く食らった程度で、今は二人背中合わせに柱に縛られてる。相手は氷川一人だった」
「は? 一人って……他の桃稜の連中は?」
「し、知らねえ……俺らに紫月を呼びに行って来いって……追ん出された時は氷川だけしかいなかったよな?」
「ああ、他には誰も見当たらなかった。俺ら、ゲーセン寄って帰ろうってブラ付いてたら氷川が声掛けて来てよ、何つか……圧倒されて連れてかれたって感じで。情けねえけど、あいつってめちゃくちゃ威圧感あるし……」
双方がうなだれながらそんなことを口にする。
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