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第114話
一方、氷川はスタンガンで身体の自由を奪った一之宮紫月を抱えて自宅へと戻っていた。両親が香港の支社へ行ってしまっている今、邸の中に自分を咎める者など誰もいない。氷川の思うがままだった。
邸の一切を取り仕切る――いわば執事的な初老の男の出迎えに、しばらくは誰も部屋へは近寄らせないようにと伝えて自室へこもる。未だ意識が朦朧としているふうな紫月の身体をベッドへと横たえると、逃げられないように両腕を紐で縛り上げ、以前にもこの紫月に盛った催淫剤を吸い込ませてニヤリと口元をひん曲げた。
「おい、一之宮――いつまで寝ボケてんだ」
横たわる彼の脇に腰を下ろし、ペチペチと頬を叩きながらその顔を見下ろす。学ランの下に着ている木綿のシャツのボタンをひとつひとつ丁寧に外し、開いたその中に薄いタンクトップを目にして更に口元をひん曲げた。
「いったい……何枚着込んでんだよ――」
思わず口をついて出た侮蔑笑いと共に、下半身が疼くような感覚が湧き上がる。タンクトップから透けて見える胸元の突起がプクリと浮き上がっている様子を目にすれば、瞬時に雄が固く熱を持った。
「ふん、相変わらずいやらしい身体つきだな……野郎のくせに乳首おっ立てやがって……もう薬が効いてきたってわけかよ?」
突起を親指の腹で弄り、クリクリとこねくり回す。
「……んっ、ん……ふ」
ようやくと意識がハッキリしだしたのか、苦しげに身をよじった紫月の様子に、慌ててその身体を組み敷くように腹の上へと馬乗りになった。
「油断するってーと、お前はヤベえからな。もっとちゃんと縛っといた方が良かったか?」
「…………?」
ぼんやりとした視界に飛び込んできた見覚えのある男の顔――ニヤけた氷川の顔が自身を見下ろしている状況に、紫月はギョッとしたように瞳を見開いた。
「お……まえ、氷川……? 何……してやがる」
身体の痺れが完全に抜け切っていないせいでか、何かにつけておぼつかないままでそう問う。
何故目の前に氷川がいるのか、それすらすぐには理解できない紫月は、ぼんやりとしたままで、瞳はとろけ、言葉も儘ならない。そんな様が奇妙な程に色香を醸し出している。
「は……! たまんね……! お前、それ計算してやってんのかって訊きてえくれえヤベえって」
「……何……のことだ……つか、何でてめえがここに居んだよ……? 一体何して……」
「何って、そんなのいちいち訊く必要もねえだろ? やっと邪魔者もいなくなったんだ。じっくり時間掛けてイイことしようぜって話だよ」
先日の乱闘でこの紫月を穢して以来、脳裏から離れなくなった独特の欲情の感覚を再び目前にして、氷川は益々興奮していく自身をはっきりと感じていた。
「邪魔者……って、何……? ――ッ!?」
紫月はそう訊きながら、自由にならない身体の感覚と自身の腹の上に馬乗りになっている氷川を確認し――、ということは、組み敷かれているということなのか。身をよじり撥ね除けようとして、もうひとつ別の嫌な感覚が疼き出しているのを悟った。
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