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第115話

 急に背筋をゾクゾクと這い上がってくるこの感じ――先日、暴行を受けた時と全く同じ予兆に蒼白となる。まさかまた例の催淫剤でも盛られたというわけか。咄嗟に周囲を見渡せば、見たことのない部屋の景色に焦燥感を煽られた。 「何……してんだ、てめえ! ここ、何処だよっ!?」  腹上の氷川を蹴り上げん勢いで拘束を振り解こうとするも、身体のどこそこに力が入らない。ここまでの経緯がだんだんと蘇ってきて、紫月はようやくと自身の置かれている状況が見え始めていた。  頭上では氷川が服のボタンを外しながらニヤけ顔でいる。 「いい部屋だろ? ここ、俺ん家」 「てめえの……家だと?」 「そ! この前のパブの跡地とは大違いだろ? 今日はゆっくり楽しめるぜ?」 「……勝手なこと抜かしてんじゃねえぞ! いいからそこどけよ! クソッ……!」  暴れようにもやはりまだ身体が自由になってくれずに、紫月は言葉で罵倒を繰り返すしか術がない。この状況をひっくり返せる方法はないかと周囲を見渡し、初めて自身の両腕が括られていることを悟った。 「てめ……これ、どういうつもりだよッ!? ふざけてんじゃねえぞ!」  思い切り腕を振って紐を解こうとするが、その動きはすぐに氷川に取り上げられてしまった。 「無理すんなって! まだスタンガンの効き目が切れてねえんだからさ」 「スタンガン……ッ!?」  そこまで言われて、ようやくと全てを思い出した。クラスメイトたちを人質に捕られ、廃工場に呼び出されて――そこで氷川がほざいていた数々の言葉までもが次々と蘇ってくる。紫月は次第に蒼白となっていった。 「どうした? やっと状況が飲み込めたってわけか?」  薄ら笑いを漏らしながらも、どういう風の吹き回しか、氷川は紫月の身体を丁寧な扱いで抱き起こすと、信じられないような突飛なことを言ってのけた。 「ところでよ、一之宮――モノは相談だが、俺ら付き合わねえか?」 「――!?」  紫月は驚いて隣の氷川を見やった。 「俺とお前がいい仲になっちまえば、桃陵と四天の因縁関係も解消だ。今までみてえなくだらねえ小競り合いもなくなるぜ? 一石二鳥だと思わねえ?」 「……な……に言ってんだ、てめ……」  あまりに話が飛び過ぎていて、ついて行けない紫月は唖然としたままだ。そんな様子を他所(よそ)に、氷川はベラベラと流暢に先を続けた。 「正直、俺はお前が気に入っちまってな。まあ……お前がっていうよりは”身体”が気に入ったって方が正しいんだが――お前を()って以来、女じゃ満足できなくなっちまったってわけ」  突飛を通り越して、何を言われているのかすら分からない。

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