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第117話

「は――相変わらず凶暴っつーかさ、往生際が悪いよなぁ、お前も!」 「う……るせえっ……」  暴れれば暴れる程、氷川は面白そうにしながら拘束する力を強めてくる。 「いい加減、観念して俺のモンになっちまえっての! てめえの番犬野郎だって、どうせ今頃は美人の婚約者様とイイ感じで盛り上がってんだろうし? こっちも負けじと楽しもうって!」 ――――――ッ!? 「婚……約…………?」 「さっきも言ったろ? 香港からヤツの許嫁が会いに来てるって。聞いた話じゃ結構イイ女みてえだぜ? 高校卒業したら式を挙げるとかって噂も出てるらしいし」 「式……だと?」 「俺ン家の香港支社にいる社員から仕入れた情報だから、ガセじゃねえと思うぜ。その女の親父も乗り気で、早く二人を結婚させたがってるって噂!」 (ま……さか、鐘崎に限ってそんなこと……)  未だ身をよじりながらも、目の前が真っ白になりそうだ。 「しっかし、ヤツも罪な野郎だよな? 向こう(香港)に女を放っぽって来るなんてよ。おおかた、結婚前に女の目の届かねえところで遊び納めでもするつもりなんじゃねえの? じゃなきゃ、こんな時期にわざわざ日本の高校に転校なんて有り得ねえ話だと思わねえ?」  次から次へと飛び出す信じ難い情報に、返す言葉も見つからない。これが氷川の憶測にせよ、あるいは事実にしろ、驚愕に変わりはなかった。それに追い打ちをかけるように氷川から飛び出す残酷な言葉は次第に紫月の心を突き刺し、えぐっていった。 「なぁ一之宮、ヤツと俺と――どっちが上手い?」 「…………ッ!?」 「お前、ヤツと寝たんだろ? あの時、俺がお前に盛った催淫剤。あれって結構強力なやつだから、一発抜いたくらいじゃ治まんなかっただろうが? で、ヤツはお前を助けたついでに、”抜く”方も手伝ってくれたんじゃねえか……ってのが俺の想像だけど。どうだ、当たりだろ? 正直に言ってみ?」  タンクトップを捲し上げるように手を突っ込まれて、指の腹で胸飾りを弄られる。氷川の興奮した吐息が首筋を撫でる度に、催淫剤によって欲情を煽られていった。 「……っ、は……ぁ、よせ……! 放せ……ッ」 「マフィアの(せがれ)だってからには相当遊んでるだろ、あいつ。女には不自由してねえだろうから、日本に留学してる間に男の味も試しとこうって魂胆かよ?」 「……ッく、……ぁあ……」 「すぐ傍にお前みてえな都合の良さそうな野郎が居りゃ、願ったり叶ったりってな?」  つまりは『お前は遊ばれただけだ』と言われているようで、気が遠くなりそうだった。

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