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第125話

 時刻は既に午後の十時になろうとしていたが、夜遅いなどと言っていられなかった。剛たちには迷惑だろうが、とにかく詳しいことを知るのが先決である。無理を言って、紫月を呼び出すのに利用されたという茂木と川田にも集まってもらい、当時の状況を尋ねることにした。  茂木らの話によれば、下校途中に氷川に声を掛けられ、例の廃工場へと連れて行かれたという。氷川は本当に一人だったようで、周囲に仲間らしきはいなかったとのことだった。 「俺らも軽くド突かれた程度で、特に酷えことはされなかった。情けねえけど、氷川のオーラに圧倒されちまっててさ……反撃のひとつも繰り出せなかったんだ」 「そんで、少し待ってたらすぐに紫月が助けに来てくれたんだ」  二人の説明に、鐘崎は少し思案するように眉をしかめた。ではやはり氷川の目的は紫月を拉致して、先日の暴行事件の時のように不埒なことをするのが目的だったというわけなのか――氷川の紫月に対する執着具合が気に掛かる。やはりもっと立ち直れないくらいに打ちのめすべきだったかと苦い思いまでもが湧き上がる。 「それで……紫月が来てからの様子はどうだったんだ。氷川はすぐにあいつを拉致して行ったわけか?」  一応、そう訊いた。 「いや、すぐにってよりは……しばらく二人で何かボソボソ話してたよな?」  茂木がそう言えば、川田もその通りだと頷いた。 「話の内容までは詳しく聞こえなかったんだけどさ、何か妙に気の抜けたような会話をしてたような……」  気の抜けたとはどういうことだろう。 「何つーか、紫月と氷川っつったら顔を合わせればすぐにもドンパチ始まりそうな感じするだろ? けど、そうでもなくて……逆に和気藹々ってのもヘンな言い方だけどよ、普通にしゃべくってたような……」 「ああ、俺も妙だと思った。だってよ、あいつら映画かなんかの話してんだぜ?」  鐘崎は更に眉をしかめさせられた。 「映画――だ?」 「うん。何でもマフィアがどうとか……、ホテル王の娘と結婚するんだけど、それがめちゃめちゃイイ女だからとか……氷川はかなり上機嫌で楽しそうにしてるし、あの二人どうなってんだって思ったんだよ」  その言葉に、鐘崎は驚いたように瞳を見開いた。 「ホテル王の娘――? 氷川がそう言ったのか?」 「ああ、うん……。はっきりは聞こえなかったけど、かなり楽しそうにそんな話してっからさ、まさかだけど一緒に映画でも観に行くつもりなのかなって。そんなわきゃねえと思いつつも、案外裏では紫月と氷川って仲良かったりすんのかなって」  茂木の説明に、鐘崎はもうひとつだけ質問を付け足した。 「それで――紫月の方はどうだったんだ。紫月も楽しそうに話に乗ってるふうだったか?」

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