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第127話 明かされる秘密
戸惑いながらもこの場から動くことも躊躇われて、紫月が一人悶々としていたその時だった。部屋の外が少しざわつき始め、誰かの話し声が聞こえてきたと思った矢先、扉が開かれ、紫月はハッとそちらを振り返った。部屋に入った来たのは鐘崎であった。
「紫月――! 起きていたのか」
息を弾ませた彼が少々逸ったような表情で近付いて来たのを見て、紫月は切なげに瞳を細めた。
「あ、うん。今さっき気が付いて……。そろそろ帰ろうと思ってたところ……」
その先に続く言葉を遮るように鐘崎は突如、強烈というくらいの抱擁で紫月を腕の中へと抱き締めた。
「鐘……ッ」
「お前の家には……親父さんには、お前が今晩俺のところに泊まると伝えてきた」
「――え!?」
「だから頼む。俺の話を聞いて欲しい」
抱き締める力が強過ぎるせいでか、鐘崎の声は少しくぐもってもいて、そしてやはり焦るかのような早口だ。しかも今夜はここへ泊まれという。紫月は驚きつつも、とにかくは話を聞こうと鐘崎の腕の中でコクリと素直に頷いてみせた。
「急にこんなこと言い出して済まない。――こっちへ来て座ってくれ」
ベッドへと促され、抱擁を解いた鐘崎に導かれながら並んで腰掛ける。
鐘崎は紫月の手を取ると、少しも離れていたくはないといったふうにその掌に力を込めながら言った。
「紫月――少し長い話になるが、最初にこれだけは言っておく。俺が好いているのは……心から大事に想っているのは、この世の中でお前だけだ。お前一人だ。これだけは信じて欲しい」
「鐘……崎……?」
「それに――俺には婚約者などはいない」
鐘崎のひと言に紫月はハッと瞳を見開き、驚いたように彼を見つめた。その表情で、やはり氷川から何かを吹き込まれていたのだろうと悟る。
「実は今、剛と京たちに会ってきたんだ。お前が氷川に連れ去られた時の状況を知っておきたくてな」
「剛と京に……?」
「ああ。茂木と川田にも来てもらって話を聞いてきた。お前――氷川ってヤツから俺のことで何か聞かされただろう」
じっと、食い入るように見つめてくる鐘崎に、紫月は困ったように視線を泳がせた。
「聞かされた……つか、あの野郎の言うことなんか……」
「氷川の親は香港にも支社を持つ企業の社長だそうだな。大方、あっちの社交界で俺の噂でも耳にしたのか、それともわざわざ調べたのかは知らねえが、それをお前に吹き込んだってところだろう――」
少々難しげな表情で眉をしかめる鐘崎に、紫月は上手い相槌も返せないままで、ただただ彼を見つめていた。
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