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第130話
如何に氷川から聞かされていたとはいえ、こうして鐘崎本人の口から打ち明けられれば、やはり驚きは尋常でなかった。すぐには相槌のひとつも儘ならない。
まるで唖然としたように硬直してしまった紫月を見つめながら、鐘崎は続けた。
「いずれお前には話そうと思っていた。なかなか切り出せなかったが――」
「あ……うん。そう……なんだ」
「驚いたか?」
「……えっと、そりゃまあ……何ていうか、驚いたってより……話が凄過ぎて……ちょっとビビってる」
「そうか――」
鐘崎はそれで当然だというように瞳を細めながらも、
「マフィアの家で育った俺は……嫌いか?」
そう訊いた。
鐘崎の黒曜石のような瞳が僅か切なげに揺れている。
紫月は上手く言葉になりそうもない気持ちを自らの手で背押しするように答えた。
「嫌いなんて……! ンなの、有り得ねえよ――! お前が……何処で育とうが……そんなん……関係ねえし」
「紫月――」
「俺は……お前だから……お前だから……その、好……きなんだから」
「そっか――そうか、紫月――ありがとうな」
額と額をグリグリと音がする程こすり合わせながら、鐘崎は何度も何度も同じ言葉を口にした。それはまるで『ありがとう』という言葉の裏に『ごめんな』という気持ちが表裏一体となっているようにも受け取れるかのようだった。
実父と養父が裏社会に身を置いているという特殊な環境で育ったことで、敬遠されると危惧していたのだろう気持ちが、痛いくらいに伝わってくる。紫月は自らも鐘崎の胸元に頭を預けながら、すっぽりとその腕の中に包まるように抱き付いた。
「んなの、礼なんて……言うな。そんなら俺だって同じ……。お前と出会う前は……散々好き勝手に遊んで歩いてた汚ねえ野郎なんだ。こんな俺を……その、好き……だなんて言ってもらって……礼を言うのは俺の方……」
ところどころ言いづらそうに言葉を千々にそんなことを口にする紫月を、鐘崎は愛しそうに両の腕で抱き締めた。強く、深く、その髪に頬に無数の口付けを落としながら抱き締めた。
「紫月――」
「……ん」
「本当は少し怖かったんだ。俺の素性を言ったら、お前に嫌われちまうんじゃねえかって……。そんなのはずるいやり方だって分かっていても、お前がもっともっと俺に情を抱いてくれるまで……もう少し先延ばしにしよう、俺から離れられなくなるくらい惚れさせてから話そう、それまでは黙っておこうなんて思ってもいた。情けねえ男だ、俺は」
声の感じだけで鐘崎の切なさがひしひしと伝わってくる。きつく抱き締めてくる腕も、僅かに震えを伴っているように感じられる。今までになく気弱な彼の一面を体感しながら、紫月はますます募る愛しい思いに双眸を震わせていた。
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