131 / 296
第131話
「な、鐘崎さ――。お前ん家がマフィアとか裏社会とか、確かにビックリはしたけどさ。でもこの家見ればそれも納得ってか――、ただの金持ちってだけじゃねえよなって思うじゃん?」
「――紫月?」
「ん、何つーか、この地下室とか立体映像の香港の街並みとか。それに源さんとか料理人の人たちとか……とにかく”すげえ”ってのを通り越してるっつかさ。マフィアの頭領って聞いて、ああなるほどなーとか思っちまった……ってこと」
時折照れ臭そうに微笑みながら、紫月は一生懸命といったふうに話す。いつもは無愛想の無表情が持ち前の彼にしては、笑顔も見せながら饒舌だ。そんな様からは、『俺は本当に気にしていない。お前がどんな境遇で育とうが誰であろうが、好きだという気持ちは揺るがない』というのを賢明に伝えようとしているのがよくよく分かるようである。鐘崎はそんな紫月が愛しくてたまらなかった。
「この家、お前は気に入ってくれたか?」思わずそう問う。
「気に入ったっつか……俺ん家とは世界が違い過ぎてビビるくらいだけどさ。でも……うん、好きだよ、ここ。この立体映像も……いつか本物を見てみてえなって思うし」
「ああ、本物なんていつだってお前が望めば見せてやる。実際はもっと綺麗だぜ」
「ん、夜景とか凄そうだよな。てかさ、この家ってやっぱりマフィアの方の親父さんの別荘とかなのか?」
「いや、実の親父の持ち物だ。育ての親もこの日本に別邸はあるんだが、都内だしな」
「そうなんだ。しっかしマジ見事っつか……今は夜景になってるけど、この前夕方に来た時はちゃんと夕陽が沈んでたし。昼とか夜とかまで映してるなんてすげえとしか言いようがねえよな。まさか……雨とか雪も降ったり……する?」
案外真面目な様子で瞳をクリクリと輝かせながらそんなことを訊いた紫月が可愛らしく思えてか、鐘崎の口元には自然に笑みが浮かぶ。思わずフッと口角が上がってしまうようで、微笑ましい気持ちでいっぱいになっていた。
「一応雨風も表現できるようにはなってるぜ。けどまあ、香港は暖っけえからな。滅多なことじゃ雪は降らねえな」
「そうなのか? へえ、ふぅん……。冬でも暖っけえなら、いいよな」
腰掛けていたベッドを離れて、映像の夜景をマジマジと見下ろしながら、紫月が身を乗り出している。こうしていると、本当に香港の自宅に紫月と二人、肩を並べて窓からの景色を眺めているような心持ちになる。
「俺も行ってみてえなぁ、香港」
まるで無意識にこぼれたような言葉も、鐘崎にとっては愛しく嬉しいものだった。
「俺が連れてってやるさ。お前に、俺の育った香港の街を案内するぜ」
「ん、いつか行ってみたい。連れてって……くれよな」
クスっと笑みながら、照れ臭いのかモジモジと視線を泳がせながら言う紫月を、鐘崎は再び強く抱き締めた。
ともだちにシェアしよう!