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第133話
「ん――、正直困り果てていたところに偶然通り掛かった御仁がいてな。その人が自分の家に匿 ってくれて手当てをしてくれたんだそうだ。お陰で親父は命拾いをしたわけだ」
「そっか……。良かった……!」
あからさまにホッと表情を緩めた紫月の肩を抱き寄せて、鐘崎は続けた。
「その御仁は少し医療の心得があったみてえでな」
「医者だったってこと?」
「いや――。医師の免許を持っているとか、そういうわけじゃなかったらしいが、少し知識があったらしくてな。何も訊かずに手当てをしてくれたんだそうだ。傷は思ったよりも深くて、出血も酷かった。だが、さすがにその御仁も輸血なんかの治療までは無理だった。器具が揃っていたわけではなかったからな。親父は高熱が出て、しばらくは起き上がることもできなかったそうだ」
鐘崎の父親を助けたというその人物は、その後も付ききりで手厚く看病を続けてくれたという。その甲斐あってか、医師に診せるよりは治りが遅かったものの、それから一週間も経つ頃には大分痛みも引き、布団の上で起き上がれるまでに快復したのだそうだ。まさに命の恩人である。
「親父はすっかりその人の家でご厄介になってな。結局、傷が完治するまで三月 ほども世話になって過ごしたんだ」
「その人、今はどうしてるんだ? お袋さんの実家の葬儀に出た帰りで銃撃されたんだったら……助けてくれた人ってのもこの辺りに住んでたってことだろ?」
「ああ。まさにここ、川崎だ」
「じゃあ、今もその人とは行き来してんのか?」
紫月の問いに、鐘崎は一瞬言葉をとめて、僅かに苦笑を漏らした。
「なぁ紫月――」
「ん?」
「親父はその御仁に世話になる内に、その人と愛し合うようになった」
「……え!?」
「三ヶ月だ。傷が完治するまでの間の三ヶ月、一緒に暮らす内に二人は魅かれ合ったんだそうだ」
「……え、じゃあ今も……てか、今はその人と……えっと、再婚した……とか?」
「いや――。結婚はしていない。親父も、おそらくはその人も――今も気持ちは変わっていないと思うが、二人は男同士なんだ」
――――!
あまりに驚いてか、紫月はこれ以上ないくらいに大きく瞳を見開いたまま鐘崎を凝視してしまった。
「お……とこ同士って……じゃあ、お前の親父さんも……」――俺たちと同じように同性同士で愛し合っているというわけかと言おうとして、一瞬言葉をためらう。何だかとんでもない秘密を聞いてしまったようで、その先に続ける言葉が出てこなかったからだ。
鐘崎はそんな紫月の様子に微苦笑ながらも、僅か切なげに瞳を緩めてみせた。
「すっかりと傷も完治して香港に戻る時、親父は彼に一緒に暮らさないかと言ったそうだ。だが、彼は断った」
「……そんな……! 何で……?」
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