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第139話
鐘崎の、少しふてくされたようなその言い草を聞いて、紫月はまたも大笑いをしてしまった。
「ぷ……ははは! お前がそんなカオするなんてさ。何だかおっかしい……!」
クスクスと堪えるように笑う。鐘崎はチィと小さな舌打ちと共に、ガバッと懐に抱え込む勢いで紫月を抱き締めた。
「……ッのやろ! ンなに笑うことねっだろ!」
「あははは、だって……なぁ。お前、普段はめっちゃクールって感じなのによ? ちっとスネたりして、そゆとこ堪んねえなって思ってさ」
「何だー? 新たな魅力発見したってか? そんでもって益々俺に惚れた?」
未だふてくされながらもその声音はとびきりに甘い。
「紫月――言えよ、惚れたって。……云って」
「……鐘……崎」
「それも違う――」
「……? 違うって……何が?」
「いい加減――”鐘崎”はよせって。剛や京だってそんなふうには呼ばねえぜ?」
「あー、そう……だよな」
いつまでも名字呼びではなくて、下の名前の方で呼んでくれという意味なのだろう。だが、最初から”鐘崎”で慣れていることだし、何だか気恥ずかしくて、すぐにはそう呼べそうもない。紫月は頬を赤らめるだけで、モジモジと愛しい腕の中でうつむいてしまった。
「――遼二だ。――ん?」
「……え、あーっと……うん……」
「紫月、ほら――」
催促と共に鐘崎の形のいい唇が頬を撫でる。それは次第に首筋へと寄せられ、そのまま耳たぶを甘噛みされる。
「ん……ッ、分かっ……遼……ッ!」
「仕方ねえ、まあ合格――ってことにしといてやるか」
そのまま濃厚なキスが思考をとろけさせ――、二人はもつれ合うようにベッドへと転がり込んだ。
「さっき……したばっかりなのにな。またお前が欲しい――」
覆い被さりながら鐘崎は瞳を欲情の焔で揺らめかせ――
それを見上げながら紫月もまたとろけるほどに頬を染めた。
「な、鐘……じゃなくて……遼……二……」
「ん――?」
相槌を打ちながらも、既に首筋から鎖骨から方々を唇で撫でられて、紫月は益々身体を熱くした。
「俺、俺も……してえ……よ……。お前に……」
「抱かれたい?」
「……ッあ……!」
低く妖艶な声音が胸元を撫でたと同時に、飾りの突起を吸われて、思わず仰け反る。つい一刻前まではあんなに切なかった気持ちが遠い日の幻のようだ。紫月は今目の前にある至福を噛み締めていた。
それと共に、ふと或る思いが脳裏を過ぎる。そう――それは自分たちの父親のことだった。
「遼二……あのさ」
「なんだ……?」
「俺、その……親父たちにも……幸せになって欲しいなって……思う」
その言葉に、甘い愛撫に漂っていた鐘崎の瞳が驚いたように揺れた。
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