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第140話

「――紫月、お前……」 「ん、俺は今……すっげ幸せ……。お前とこうしてられて、傍に居られて、その……好きだ……とかも言ってもらえて。けど、親父たちは好き合ってるのに一緒に暮らせなかったんだよな? しかもそれ、俺を育てなきゃなんねえからってのが理由なんだし。だったら――俺はもうガキじゃねんだし、親父にも幸せになって欲しいって思うんだ。今でもお前の親父さんのことを想ってんなら、もう俺に遠慮しねえで一緒になって欲しいって思う」  真剣な顔付きでそんなことを口走った紫月に、鐘崎は感激ひとしおといったように瞳を細めてみせた。 「紫月、ありがとな――。正直、そんなふうに言ってもらえるとは思ってなかった。親父たちのことを話したら、お前は反対こそしないまでも、驚いて戸惑うだろうって思ってたからよ」 「そりゃまあ驚いたには違いねえけど……さ。でも、親父たちがこの十数年、どんな気持ちで遠く離れて暮らしてきたのかって思ったら……すげえ辛かっただろうなって。俺だったら……耐えられねえ……。お前と離ればなれになるだなんて……」 「紫月――」  紫月の、あまりにも愛しい言葉を聞いて、鐘崎はそれこそがもう耐えられないといったふうに思い切り腕の中へと彼を抱き包んだ。 「ありがとうな……紫月。本当にありがとう――」 「んな……お前が礼を言うなんてさ」 「嬉しいんだ。お前が俺の気持ちを受け入れてくれて――その、俺の素性を知っても変わらずに俺を好いてくれること。それだけじゃねえ、親父たちのことまで理解して受け入れてくれることが――すげえ嬉しいんだ」 「鐘……遼二……」 「俺はさ、紫月――。情けねえ話だが……幼心に親父たちの選択を理解できねえって思ってたこともあったんだ。好き合ってるのにどうして離れていられるんだって。そんなのはホントの愛じゃねんじゃねえかとまで思ったこともあって、ヘンな話だが反抗心を抱いたこともあった」 「……遼……二?」 「俺だったら好きになったヤツとは離れたりしねえ。住む場所なんか何処だっていいじゃねえかって。香港に呼ぶだの川崎に残るだの、こいつら、本気でお互いのことが好きじゃねえのかよって……焦れたこともあったんだ。俺は親父たちのようにはなりたくねえ。本気で好いたヤツの手は何に代えても放したりしねえって……意固地になってたこともあった。けど……今のお前の言葉を聞いて……お前のそのあったけえ気持ちに触れて……イキがってた自分が情けねえって思った。自分がどんだけガキなのか――思い知らされた気分だぜ」 「……遼二」  ああ、だからなのか。この鐘崎から、ことある毎に飛び出した言葉が脳裏を巡る。  俺はお前と一緒に居られるなら形なんてどうだっていい。香港だろうが川崎だろうが、嫁に行くだの婿に取るだの、神界だろうが魔界だろうが、そんなことはどうでもいいんだ――!  お前と離れるなんてことはしねえ。絶対にしねえ――

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