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第145話

 どうにも調子が狂ってしまう。この帝斗の言うこと成すこと、ともすれば勘に障っても良さそうな内容だが、どうしてかあまり頭にこないから不思議である。当人に悪気がないせいなのか、それとも持って生まれた天性のものか――とにかく氷川は普段自分の周囲にはいないタイプの彼に、ヘンな感心ともつかない居心地の良さを感じてしまうのが不思議な心持ちでいた。  と、そこへ執事がお茶を持ってやって来た。 「どうぞ」と言って帝斗の側から品のいいティーカップに入った紅茶と菓子を並べていく。 「ああ、すみません。とてもいい香りのお紅茶ですね」 「ありがとうございます。こちらは当家の主が気に入りの茶葉でして。坊ちゃまのお口に合えばよろしいのですが」 「ええ、とても美味しそうだ。お心遣い感謝致します」 「とんでもありません。ではごゆっくりどうぞ」 「ありがとう」  普段から社交界などで大人慣れしているのか、執事のような年配者に対しても臆するところがまるでない。かといって威張るとか高飛車ということでは決してなく、終始笑顔を絶やさず物腰はやわらかで、そつがない。そんな帝斗の様子に氷川は若干唖然としながらも、やはり悪い気はしないから不思議だった。 「――で、俺に何の用だよ。てかよ、お前、授業はどうしたんだ? まさかサボって来たってか?」 「ああ、まあそんなところさ」  美味そうに紅茶を口に含みながら笑顔を見せる。まるで悪気のなくサボったと平気で言うこの男に、氷川はほとほと押され気味だ。 「ふぅん、お前みてえなお坊ちゃまでもサボることもあるんだ」  嫌味まじりで言うも、 「そんなに不思議かい? まあたまにはいいじゃないか」  平然と笑顔で返される。  こう出られては、さすがの氷川も上手い切り返しが思い付かない。何とも不思議な持ち味の男は、更に悪気のなく突飛なことを訊いてよこした。 「ところでキミ、氷川君さ。ひとつ訊きたいんだけれど、キミは四天学園の一之宮君っていう彼のことが好きなのかい?」 「……ぶッ……はぁ!?」  思わず飲みかけた紅茶を噴き出しそうな内容だ。氷川は思いきりむせさせられてしまった。 「てめ――何だ、急に」 「ああ、悪い悪い。いや、だってこの前の番長対決の時に、キミはあの一之宮君のケツを掘りたいとか何とか言っていたじゃない。つまりは彼とセックスがしたいってことだったんだろう? だから彼に特別な好意を寄せているのかと思ったまでさ」 「……セッ……って、お前なぁ」  お坊ちゃまの怖い物知らずもここまでくると唖然である。悪気がないのも結構だが、それにしてもほどほどにして欲しいと思いつつ、何だかんだと氷川は素直に帝斗の問いに答えてみせた。

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