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第148話

「それじゃ、僕はこのまま退散するとしよう。後はゆっくり二人だけで話すといいよ」  一旦は部屋に入ったものの、ザッと室内を一瞥だけしてそんなことを口走った帝斗に、氷川は少々慌てたように瞳を見開いた。 「退散って……てめ、もう帰るってわけか?」 「済まないね。今日は午後から全校集会があってね。僕は一応会長の任を負っているから外せないんだよ。ああ、この冰の学園は今日は創立記念日で休校だから安心してくれていいよ。それに明日は土曜日だし、冰は三連休だそうだから気兼ねなくお相手になってやっておくれ」 「……気兼ねなくって、お前なぁ」 「ああ、それから――僕が学園に戻ったら、ここまで乗ってきた車を待機させておくから。氷川君、お帰りになる時はそれを使っておくれ。運転手には伝えておくからさ」  ヒラヒラと手を振りながら笑顔でそう言う帝斗に、雪吹冰が「悪いな」と声を掛ける。 「帝斗、いろいろ済まなかったな。後で電話するから――」 「ああ、待っているよ。それじゃ氷川君、冰のことをよろしく頼んだよ」  にこやかにそう言うと、粟津帝斗はさっさと部屋を後にして行った。 ◇    ◇    ◇  急に二人きりにさせられて、それこそ何を話していいか分からない。妙にソワソワとしてしまい、落ち着かない。普段は威風堂々とし過ぎているくらいの氷川が、珍しくも肩身の狭そうに視線を泳がせていた。 (くそ――! 粟津の野郎ったら、とっとと引き上げちまいやがって……。どうせなら最後までしっかり世話焼いていけってんだよ。見たところ、この冰って野郎は粟津のヤツと違って雄弁てわけでもなさそうだし、どっちかっつったら人見知りっぽい雰囲気丸出しじゃねえかよ……。いきなり二人っきりで何を話しゃいいってんだ!)  そんな氷川の戸惑いを裏切るかのように、 「突然呼び立てるようなことをして済まない。今、飲み物を持ってくるから、適当に掛けててくれ」  雪吹冰の方から話し掛けて来られて、少々驚くと共にホッと肩の力が抜ける。――が、この直後に予想だにしないとんでもないことを聞かされるハメになるなどとは、この時の氷川には知る由もなかった。 「冷たいものでいいか? アイスコーヒーとアイスティくらいだけど」  冷蔵庫を開けながら、冰がそう訊く。 「あ、ああ……別に何でもいい。お前と一緒のでいいぜ」 「そう。じゃあアイスティでいい?」 「ああ――」  冰はクォーターサイズのドリンクを二本抱えながら、氷川の座ったソファの対面へと腰を下ろした。

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