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第151話
「つまり、親父さんが倒れたから経営が傾いちまったってことかよ?」
「ああ……。親父が倒れた直後、一時的に代理になったのが親父の従兄弟っていう人だったんだが……。俺の親父は兄弟がいねえし、お袋は会社のことは何も分からねえ。かといって、まだ学生の身分の俺が継ぐわけにもいかねえし……」
「何も親族が代理をしなくても、親父さんのブレーンだっているだろうが」
「ああ、そうなんだけど。親父の従兄弟ってのが、代理は雪吹の血筋を引く自分がやるってきかなくてよ……株主たちを言葉巧みに丸め込みやがった。そういうところは長けてる人なんだ」
「つまりは体のいい乗っ取りじゃねえか……」
胸糞の悪いことだと顔を歪めたくなるような話だ。他人事ながら、氷川は酷く不機嫌になってしまいそうだった。そんな気持ちのままに、
「で、結局その従兄弟って野郎に変わった途端、経営が傾き出したってわけかよ?」
もう少し詳しく知りたくなってそう訊いた。
「ああ。その従兄弟――俺はその人のことを叔父さんって呼んでるんだが……その叔父にもブレーンっつうか、取り巻きがいてな。その取り巻き共の口車に乗せられて……挙げ句は騙されて株をごっそりやられちまったらしい。俺も詳しいことは分かんねえけど、親父のブレーンだった人がチラっとそんなことを言ってたんだ」
このままでは倒産は目に見えていると困り果てていた時だった。そんな叔父の窮地に手を差し伸べると名乗り出た人物があったそうだ。冰の父親とはこれまでに面識がなかったらしいが、叔父の個人的な知り合いだということで、企業の規模としてはそこそこらしい。資金を援助してくれる代わりに、冰を愛人として差し出せという交換条件を突き付けてきたということだった。
「その企業の社長ってのは男色らしくてな。新年の賀詞交換会で俺を見掛けたとかで……俺を所望すると言ってきたそうだ」
「お前、賀詞交換会なんかに出てんのかよ……」
氷川は片眉を吊り上げながら驚いてそう訊いた。
「ああ、毎年出てるってわけじゃねんだけど……今年は親父も入院中で顔を出せないし、せめても『雪吹』の正当な跡継ぎってことを知らしめたいからって、親父のブレーンたちに頼まれて顔を出した。それに……帝斗は毎年出てるっていうから、ヤツと一緒ならと思ってな」
なるほど、そこで目を付けられたというわけか。氷川はますます胸糞が悪いといったふうに、大きな溜め息を漏らさずにいられなかった。
まあ、如何に気に入ったとしても、まだ高校生である冰を愛人にしたいなどと聞いて呆れる話だが、それを承諾した叔父というのも常識知らずというものだ。逆にいうならば、そんな連中だからこそツルんでいるというところなのだろう。
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