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第152話
それにしても、未成年を借金の形に取るなど、ちょっと考えれば犯罪に直結するということすら分からない馬鹿な連中なわけだ。そんな輩の言いなりになる必要はない――氷川はすっかり腹を立てていた。
「そんな奴らの言うことをマトモに受けるこたぁねえだろうが! 企業を立て直すなら、親父さんのブレーンや株主たちともよく話し合って、他に方法いくらでもあるじゃねえかよ」
まるで我が事のように腹立たしさを隠すこともせず、怒りをあらわにする氷川に、冰はクイと瞳を細めた。
「アンタって……やっぱり……」
「ああ?」
思わず声を荒げてしまう。
「ん――、羨ましいよ、そういうとこ。あの日、番格対決ってのを見学に行った時にも思ったけど……向こうっ気が強くて、何にでも立ち向かっていく勇気があって……。不良だなんだって言われてようが、喧嘩することにもまるで臆することもなく……俺にもそんな勇気があったらって、何度思ったか知れねえ」
「……お前」
「だからアンタに頼みたい、そう思ったんだ……。どこの誰とも知らねえ、汚えクソ親父に好きにされる前に……せめて初めての相手くらい……てめえでいいなって思ったヤツと……できたらいいって」
肩を震わせ、ともすれば涙が浮かんでいるんじゃないかと思えるような、くぐもった声でそんなことを告げてくる冰を目の前にして、氷川は驚くと共に胸を締め付けられる思いに陥ってしまった。
つまりは愛人にされて穢される前に、ほんの少しでいいから胸の温まるような思い出を作りたい――そういうことなのだろうか。しかも今の冰の話では、それが彼の初体験になるということだ。
氷川は冰の切ない思いに同情すると共に、彼の初めての相手に自分が選ばれたということに何とも言いようのない複雑な心境を隠せなかった。
自分も冰もまだ子供である。いくら不良で名を馳せ、番格だの頭だのと持て囃されているとはいえ、企業がらみの大人の社会を目の前にすれば、吹けば飛ぶような無力さである。何の手立ても思い付かず、何の実行力も持ち得ない子供そのものなのだ。
いくら同情しようが、一緒になって腹を立てようが、現実問題としてこの冰の力になれることなど皆無であることに変わりはない。
だとすれば、彼にしてやれることは彼が望むそのひとつのみであろうか――。
氷川は自らの無力さに唇を噛み締める思いで立ち上がると、まるで無感情のようにポツリと言った。
「分かった――」
「……え?」
「お前の頼み、聞いてやるぜ」
氷川は冰を見下ろしながら手を差し出した。
「……えっと、あの……」
「ヤるんだろ? ベッドルーム、何処だよ」
「……え、あの……アンタ……」
「抱いてくれって言ったろうが――」
氷川に強く手を握られて、冰は驚きに瞳を見開いた。
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