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第153話
「……いいのか?」
「ああ――。いいから言ってる」
「そう……」
冰は切なげに瞳をゆるめると、氷川に手を取られるままにベッドルームへと案内した。
◇ ◇ ◇
「――すっげ、バカでけえベッド……」
ベッドルームに入るとすぐに、氷川が驚いたように目を剥いていた。
「キングサイズが二台分はありそうじゃねえか……。粟津の奴、ここは自分専用の部屋だとかって言ってたが、マジお坊ちゃんなんだな。どうせヤツの自宅ってのも、ここと似たり寄ったりなんだろうが……それにしてもいくらダチの頼みだからって、俺とお前を引き合わせる為にこんな豪華な部屋をポンと提供するとか……てめえら、一体どういう付き合いしてんだよ……」
半ば呆れ気味で、氷川は肩をすくめてみせた。
「てかよ……粟津の野郎はお前の現状を知ってんのか?」
冰が帝斗にどこまでをどう話しているのかが気になって、氷川はそう訊いた。
「ああ、ザッとだが話してある。帝斗には言うつもりはなかったんだが、財閥同士のこういう話ってのは噂が耳に入るのも早くてな。俺が言う前に既に知ってたよ」
まあ、そうだろうなとは想像が付く。粟津家は大財閥だ。そういった話はすぐにでも行き渡ってしまうのだろう。
「帝斗の奴ったら、俺ん家の苦境を知って、それだったら自分の親父さんに助力を頼んでみるとか言い出してよ……。まあ、ヤツがこのことを知れば、十中八九そう言うと思ってたけど……。けど俺は嫌だったんだ。いくら困ってるとはいえ、親友の家に迷惑掛けるなんざしたくねえし」
それは分からないでもない。
粟津家にとってみれば、冰の家に助け船を出すなど、いとも簡単なことだろうと思える。だが、冰の側にしてみれば、そんなことに親友を巻き込みたくはないというところなのだろう。
そんな冰の気持ちを聞いて、粟津帝斗とこの冰とは、それなりにわきまえたいい付き合いをしているのだろうことが窺えた。
「これは俺の家の問題だ。帝斗に頼らずに俺自身で解決しなきゃならない。その手段が愛人になることしかねえってんなら、それも致し方ない。けど……その前に一度でいい、後で振り返った時にあったけえ思い出を作りたい。男に抱かれるなんて……今まで想像もしてなかったことをしなきゃなんねえなら、せめて……初めての時くらいはてめえでいいと思ったヤツとできたらいい、そう思ってアンタに会えないかって帝斗に相談したんだ」
冰の考えや意思の固さ、筋を通したい気持ちは氷川にも理解できる気がしていた。
だが、ひとつだけ、その相手が何故自分なのかということだけは、いくら説明されても合点がいくようないかないような、曖昧さなのだ。氷川は思い切って、そのモヤモヤとした気持ちを冰にぶつけてみることにした。
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