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第193話 孤高の番格

 そして週明け――、氷川は二週間ぶりで桃陵学園へと登校した。  朝の昇降口は相も変わらず賑わいを見せている。たった二週間といえばそうだが、随分と懐かしいような気分にもなって、氷川は軽く溜め息を落とした、その時だった。 「よう、氷川――」 「学園の番格様が珍しくも朝一でご登校かよ」  見るからにガラの悪そうな男たちが数人で氷川を取り囲んだ。  敵意剥き出しのオーラをまとったその集団に、氷川は眉根を寄せる。彼らはこれまでにも学園内で”(あたま)”を争って対立してきたグループの中心的存在の男たちであった。 「まさか戻ってくるとはね? あのまま退学にでもなってくれりゃ、清々したってのによー」  男らの中心にいた一人が、わざと肩先をぶつけながらド突くように息巻いている。停学明け早々に面倒事はご免だと、無視して昇降口から立ち去ろうとした氷川の背を、別のもう一人が蹴り飛ばした。 「……ッ!?」  よろけながらもその場に踏ん張った氷川は、無言のまま、視線だけで後方を振り返った。その様子を面白がるように、一団の中心にいた男が一歩前へと歩み出てきて、顎をしゃくりながら侮蔑丸出しで口角をひん曲げる。 「氷川よー、てめえ、停学中にとんでもねえことしでかしてくれたってじゃねえか!」 「――何のことだ」  ようやくと氷川が口を開いた。と同時に、ますます意気込んだ男が調子付く。 「てめえ、四天の一之宮に頭下げたってじゃねえか!」 「――――」 「無様に土下座までして、一之宮に媚びへつらってるてめえの姿をよー、目撃したってヤツがいるんだけどもー。どういうつもりか知らねえが、桃陵の名に泥を塗るようなマネしやがって! ただで済むと思うなよ!」  凄みと同時に、思い切り繰り出された男の蹴りが氷川の脇腹を直撃――よろけた瞬間に抱えていた学生鞄が床へと放り出された。  既に周囲には何事かと集まって来た野次馬たちが、氷川を取り囲んだ一団を遠巻きにするようにして人だかりができ始めていた。とはいえ、自分たちは関わり合いになりたくはないのだろう。興味は示しつつも、ある一定の距離を取ったまま誰も近付いて来ようとはしない。  そんな状況にますます気を大きくしたわけか、男らが今度は数人で(なぶ)るかのように氷川の肩先を突いたり、足下に軽い蹴りを繰り出したりしながら息巻き始めた。 「な、どうなんだって!」 「どういうつもりか説明してもらおうじゃねえの!」 「つか、何コイツ? おとなしくやられるだけって、情けねえのー!」 「停学食らったくれえで怖じ気付きやがったわけ? こいつ、ホントにあの氷川かよ?」 「おらおら、悔しかったらやり返して来いってんだよ! てめえ、強えんだろ? 俺ら全員まとめてブッ飛ばしてみせろって!」 「そうすりゃ、てめえはまーた停学に逆戻りだぜー!」 「つかさ、いっそ退学ンでもなりゃ清々するってーの!」

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