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第182話

「救うって……じゃあ、やっぱりお前もあいつン家の事情を知ってるってわけか?」 「やはりキミも聞いていたか――。冰の家は今、かなり苦しい立場に立たされていてね。親父さんが入院していることは聞いたかい?」 「ああ、聞いた」 「氷川君、僕はつい調子に乗って、物事を面白おかしく語ったり、会話の中でからかったりしてしまう悪い癖があるんだけれど――悪気はないんだ」  まあ、それは何となく分かる気がしていた。この帝斗が昨日の朝に突如訪ねて来た際にも、そんなようなところのある性質だと感じていたからだ。だが、昨日も今も、不思議と嫌味な感じは受けないから、根は悪くないのだろうと氷川は思っていた。 「こんな僕だけれど、ここからは真面目に話すから聞いて欲しい。冰の家――つまり雪吹財閥は今、経営の危機に直面していてね。冰は何とかして他人に頼らずに、雪吹の家名を守りたいと思っているんだ。その為に彼は助け船を名乗り出た企業の言いなりになる覚悟を決めたということわけだが――それについても聞いたかい?」 「ああ……一応は……。とんでもねえ条件だって話だが――」 「そうだね。まだ未成年の彼を愛人に差し出せだなんて、頭のおかしな社長だよ」  やはり帝斗はほぼ全ての事情を知っているらしい。氷川は黙ったままで帝斗の話の続きを待った。 「冰を愛人にしたいと言ってきたのは女性起業家というわけではなくてね。男性――つまりは同性の冰をそういった対象として望んでいるわけだ」  そこまで聞いて、氷川は初めて相槌の言葉を口にした。 「それは川西とかいう不動産会社の社長のことか?」 「よくご存じだね。冰が話したのかい?」 「いや……そうじゃねえが、俺もあいつの家の事情を聞いて気になってな。少し調べたんだが――どうもあまりいい噂が聞かれねえらしいってことくらいしか分からなくて……」 「いい噂どころの話じゃないさ。正直に言って、とんでもないヤツだよ」 「とんでもねえって、どんな……」 「川西はもう六十に近いんだけれどね。好色で――その上、両刀なんだ。女性も男性も欲しがる、それもあちこちでつまみ食いするような色情狂さ」  やはり――か。先程、執事の真田から聞いた噂は事実だったようである。 「川西は女性が相手ならば、とびきり鼻の下を伸ばすようなヤツでね。猫可愛がりするそうだよ。欲しいという物は何でも買い与えて、宝石だの服だの、車にマンションまで。甘やかし放題さ」  そんな男が何を好き好んで男性の冰をも欲しがるというわけだ。氷川の疑問を他所に、帝斗はここで再び、少々別の方向へと話を振った。 「冰の家と僕の家とは古くから懇意にしている間柄だ。それこそ仕事もプライベートも越えて親交しているといえる。だから僕は今回の件を知った時に、我が粟津財閥が力になりたいと申し出たんだがね。冰にはあっさり断られてしまったんだよ」  それについては氷川も冰自身からそう聞いていたので知っている。

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