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第184話
「そこでキミに頼みがあるんだ。キミが冰を守ってやってくれないだろうか」
「俺が……あいつを……?」
「ああ。無論、僕も僕の父も――冰の身辺については気を配るつもりでいる。場合によっては、父から冰の叔父様に直接苦言を呈することも考えている。けれど、川西というのは少々厄介な人脈を持っていてね。慎重にならざるを得ないところもあるんだ」
それはつまり、執事の真田が言っていたような”裏社会との繋がり”のことだろうか、
「なあ、粟津――。川西ってのはやっぱりヤクザと関係があるってことなのか?」
堪らずに氷川はそう訊いた。
「キミも知っていたのか……。実はそうなんだよ」
帝斗も、よくそこまでご存じだねといったように驚きをみせた。
帝斗の話では、冰を愛人に欲しがっている川西という男は、仕事の面では確かに一目置かざるを得ないやり手らしいとのことだった。一代で今の不動産会社を立ち上げて、名のある企業に発展させ、上場させたというのだ。
だが一方ではその筋の組織とも付き合いがあるようで、それも業界内では有名だということだった。
帝斗は川西についてザッと説明をすると、話を元に戻すけどと言って、再び真剣な顔付きになった。
「川西という男は、女性に対しては猫可愛がりするようなんだけれどね。男性で遊ぶ時は全く違うんだそうだ。主には玄人の店で買った男性たちを相手にしているようなんだけれど、どうも痛め付けることで快楽を得るといった趣向の持ち主らしい」
「痛め付ける……?」
「僕も実際に現場を見たわけじゃないから、あくまで噂だけれどね。何でもムチで打ったり、いかがわしい玩具で相手が嫌がるようなことを強要したり――酷い時には発展場あたりで声を掛けて集めた男たちを連れて来て、輪姦まがいのことをさせたりもするらしい」
帝斗の話に、氷川は思い切り眉根を吊り上げた。
すぐには相槌の言葉も出てこない。もしも冰がそんなことをされたらと想像するだけで、こめかみに青筋が走る心持ちだった。
「女性を甘やかす反面、男にはその反動がいくのかどうかは知らないが、とにかく酷いという評判でね。度が過ぎて、今じゃ殆どの店から出入禁止を食らっているらしい」
「…………ッ、マジ……かよ」
「そんな男だからね、遊ぶ相手に事欠いて、是が非でも冰を欲しがるのは考えられないことではないだろう? 加えて冰の叔父様も金が必要なわけだから、二人の利害は一致するというわけさ」
聞けば聞くほど胸糞の悪くなる話である。氷川は怒りの為か、無意識に握り締めた拳をワナワナと震わせながら、帝斗の対面で唇を噛み締めてしまった。
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