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第191話

「なら、一目惚れってやつだったのかもな」 「だよねー。氷川君の方だって、あれは絶対冰のことが好きだよ。あんなに心配しちゃってさ、自分の家に住まわせてまで冰を守りたいって言い出すんだもの。愛以外の何ものでもないじゃない」  それ程想い合っているのなら、とっとと付き合ってしまえばいいものを――と、他人事ながら帝斗は焦れったくて堪らないといったふうに溜め息顔だ。綾乃木はそんな様子を横目にしながら、やれやれといったふうに笑みを浮かべてみせた。 「そんなことより明日は冰君のお袋さんに会いに行くんだろ? 引っ越しの算段もしなきゃならねえし」 「うん、そうなんだけどさ」 「お前がそうやって気を揉んだところで、他人様の色恋だ。なるようにしかならんさ」 「ふん……だ。天音さんはオトナだよねー」 「まあ、一緒に暮らす内に二人の気持ちも落ち着くところに落ち着くんじゃねえか? 心配には及ばんさ」 「ま、そっか。じゃあ、とりあえずは目先の準備を万端にしなきゃだよね。天音さんにもいろいろご足労掛けちゃうと思うけど、よろしく頼むね」  冰の母親の承諾が得られれば、なるべく早めに氷川邸への引っ越しを済ませたいところだ。川西という男が海外出張から帰って来るまであと半月足らず――それまでには色々と万全にしておきたい。冰と氷川は勿論のこと、帝斗や粟津家にとっても何かと慌ただしい期間となるだろう。 「冰には幸せになってもらいたいものね。僕も頑張らなきゃ!」  飛んでいく窓の景色を見つめながら、助手席で帝斗が意気込んでいる。そんな様子を横目に、綾乃木は瞳を細めていた。  親友である冰のことを我が事のようにして親身になっている若き恋人の姿を微笑ましげに見つめながらも、彼の為にも精一杯のサポートに務めようと心に誓った綾乃木だった。 ◇    ◇    ◇

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