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第196話

「それじゃ冰、そろそろ二階(うえ)へ行くか。お前の部屋を案内するぜ」  氷川に連れられて、冰はこれから住まわせてもらう部屋へと向かった。  階段を上がりながら周囲を見渡せば、氷川邸は本当に広い。フカフカとした毛足の長い絨毯が階段にまで敷き詰められていて、左右の手すりにはアイアン製の凝ったデザインが施されている。階段を上りきると広い踊り場を挟んだ左右に各部屋があって、シンメトリーな造りになっていた。  まるで高級ホテルのようでもあり、はたまた童話に出てくる城のような印象でもある。今にもドレスを纏ったお姫様が現れるんじゃないかと想像させられるような豪華な造りに驚かされた。  氷川の部屋は二階の中央付近にあり、一部屋おいた隣が冰の自室になるとのことだった。 「とりあえずクローゼットに服を掛けちまおうか」  帝斗らが置いていった段ボールの荷箱を開けながら氷川がそう言う。 「クローゼットはここだ。でもってこっちがバスルーム。風呂とトイレは部屋に付いてるから気兼ねなくていいだろ? 部屋の掃除とかベッドのリネンとかは、お前が学園に行ってる間にうちの真田の指示でメイドたちがやるから、見られたくねえモンなんかがあったらクローゼットか机の引き出しにでも入れておけな?」  まさにホテル並みの待遇である。机の上にはパソコンも完備してあり、自由に使って構わないという。部屋の中央に設えられたベッドは広く、ダブルサイズを上回る大きさなので、おそらくはクイーンかキングサイズであろうと思われる。天井高もあり広々としていて、一人で住むには勿体ない程である。冰は驚き顔で部屋の中央に突っ立ったまま、瞳をグリグリとさせながら室内を見渡してしまった。 「すごいんだな……。こんな立派な部屋に住まわせてもらうなんて、本当に恐縮で……」 「そんな言うほどのこっちゃねえだろ。粟津ンとこのホテルと比べたら狭いもんだろうが」氷川が笑う。その笑顔にも心が鷲掴みにされそうで、冰は頬を染めた。 「あの、白夜……」 「あ?」  氷川は段ボールから冰の持って来た服を引っ張り出しながら相槌を返す。そんな仕草のひとつひとつに心拍数が早くなる――。 「あの、ありがとう……な? 俺なんかの為にこんなにしてくれて……その、本当に俺……」  うつむき加減で頬を赤らめながらそんなことを言った冰に、氷川は荷解きの手を止めると、やわらかな笑みを浮かべながら立ち上がった。そして部屋の中央で所在なさげにしている冰へと歩み寄り――ポスンとその大きな掌を彼の頭の上に置く。 「ンなに気を遣うなって! お前のことは俺がここに呼びたくて、半ば強引に来てもらったようなもんなんだ。だから遠慮や気遣いなんか全然いらねえ」  そう言って髪をくしゃくしゃっと撫でた。

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