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第201話
「今日は疲れたろ? お前、すぐ寝ちまうかと思ってたけどよ」
「ん、一応ベッドには入ったんだけどさ……」
「なかなか寝付けねえ?」
「ん、まあ……。いろんなこと考え出したら目が冴えちまって……」
「お前の気持ちはよく分かるさ。不安も多いだろうが、俺も真田もいる。粟津だっているし、何も心配することはねえって」
ペットボトルの水を一気に半分くらいまで飲み干しながら、氷川が言う。
飲みかけのそれをテーブルへと置く仕草、汗を拭う仕草、その一つ一つにドキドキとさせられてしまうようで、冰は何とも緊張気味だ。会話ひとつにしても、どんなことを話題にすればいいやら戸惑って、つい大胆なことが口をついて出てしまった。
「あの……白夜……!」
「ん?」
「えっと、今晩……その、俺ここで一緒に……」
「――あ?」
「えっと……この部屋で寝てもいい……かな?」
氷川はポカンとした顔付きで、冰を見つめてしまった。
「あ……ごめ……。迷惑……なら自分の部屋に戻る……から」
冰は頬を真っ赤にしながらうつむいた。
自分でもかなり大胆なことを言ってしまったと、アワアワしてしまう。顔も上げられず、今しがた貰ったばかりのペットボトルを握り締めたまま視線を泳がせる。
そんな様子を横目に、氷川はふいと瞳を細めると、
「一人じゃ寝られそうにねえってか? ならここで寝りゃいいぜ」
穏やかに微笑みながらそう言った。
冰は驚き顔ながらも、大きな瞳を目一杯開いて氷川を見つめた。
「ほんとに……いいのか?」
「ああ、いいって」
氷川はソファから立ち上がりざまに冰の髪をクシャっと撫でると、「来いよ」そう言ってベッドへと向かった。
「そん代わり、俺が襲うかも知んねえぞー」
悪戯そうな笑みを浮かべながら言う。冰の分のスペースを空けるように自分はベッド端へと寄り、掛け布団を腕で持ち上げながら手招きをする。
「このベッド、わりとでけえから二人でも狭かねえだろ?」
「あ、うん……さんきゅ」
冰は氷川の腕の中へと転がり込むように布団に潜り込んだ。
「あのさ、白夜……」
「ん?」
「襲っても……いい……つか、俺……」
襲われたい――
さすがに言葉にこそ出せなかったが、染まった頬がそんな冰の気持ちを代弁しているかのようだった。
「バッカ……。冗談だっての! ンなことしねえから、安心して休めな?」
冰のおでこをコツンを指で突きながら氷川は笑った。その瞬間、冰は胸の奥がチクリと痛んだような気がして、何ともいえない気持ちに陥ってしまった。
(何でだよ……? 何で白夜は平気な顔していられるんだろう。俺はこんなに心臓がバクバクして、飛び出しそうなくらいなのに……。傍にいるってだけで、堪んねえ気持ちなのに……!)
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