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第203話
「白夜、ごめん。俺……、俺は……」
アンタのことが知りたい。
どうしてこんなにまで良くしてくれるのか、なのにどうして何もしてくれないのか、アンタには好きな人がいるのか、それはあの一之宮紫月って人のことなのか、俺のことはどんなふうに思ってくれているのか。
この家にまで呼んでくれて守ってくれるっていうのはどうしてか、単に同情なのか、それとももっと特別な感情を持ってくれてのことなのか――全部全部知りたい。
だが、冰にはそれらを言葉に出して氷川に伝える勇気がなかった。訊きたいくせに、答えを聞いてしまうのが怖いというのも本当だったからだ。
苦しくて、切なくてどうしようもない。今までこんな気持ちになったことはなかった。
これが恋の感情なのだということを、冰はまだ自覚できずにいた。今までは格別に好きになった相手もいなかった冰にとっては致し方ないことなのだが、上手く感情のコントロールがきかないまま、気持ちだけが高ぶっては言いようのない不安感に苛まれる。行き所のない気持ちが無意識にあふれ出した涙となって、冰の頬を濡らした。
「冰――? おい、どうした?」
「……んでもない……何でもねんだ……」
「何でもねえわけねえだろ……! 冰、無理にとは言わねえ。俺には言いたくねえことだってんなら仕方ねえ。けど、言っても構わねえことなら我慢しねえで話せよ」
心配そうに訊いてくれる声音は至極真面目だ。本心から気に掛けてくれているのがヒシヒシと伝わってくる。冰はもうすべてが堪えきれずに――いや、抱えきれずにというべきか、胸の内に溜めていることが止め処なく口をついて出てしまいそうだった。
「ごめん、白夜……。俺、欲張りなんだ……」
「――冰?」
「アンタに……こんなに良くしてもらってるのに、それだけじゃ足りなくて……」
足りないとはどういう意味だろう――氷川は逸る気持ちを抑えながら話の続きを待った。
「冰、何でもいい。どんなことでも――俺にできることがあれば全力で力になる。だから遠慮しねえで言ってくれ」
「ん、ん……ごめん。じゃあ聞いて……」
「ああ、勿論」
「正直、俺にもよく分かんねんだ……。何ていうか、その……俺、苦しいんだ……」
「苦しい? 気持ち的に辛えってことか? それとも……どっか具合でも悪いんなら……」
氷川の問いに、冰は枕の上でフルフルと頭を振りながら言った。
「アンタには……誰か好きな奴がいるんだろうかとか……俺はどう思われてんだろうとか、考え出したらキリがなくなって……すげえ苦しくなるんだ。心臓が縮み上がるっつか……誰かに掴まれてギュウギュウ握り潰されるような感じで……!」
すげえ苦しくて――堪らないんだ!
「俺、こんなん初めてで……どうしたらいいか分かんねんだ。俺は……あの番格勝負の時、アンタに初めて会ったあの時から……毎日毎日アンタのこと考えない日はなくって……。ずっと、あの日からずっと……どんどん苦しくなって、不安になったり嫉妬したり泣きたくなったり、ぐちゃぐちゃなんだ……! 本当にもう……どうしたらいいか分かんねんだ……!」
取り留めもない言葉の羅列だった。
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