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第204話
だが、懸命に――本当に辛そうに眉をしかめて瞳を震わせながらの告白に、氷川は驚いた。あまりに驚いてか、しばし硬直したまま相槌さえすぐには返せなかったくらいだ。
「……冰、お前……それって」
「おかしいだろ? 自分でもワケ分かんねんだ……」
「そっか――そうか……」
氷川は切なげに瞳を細めると、後方から冰を包み込むように抱き締めた。
そうされて驚きつつも、冰はその温もりが堪らない程あたたかくて、と同時に切なくて、今にも零れ出しそうな涙を必死に堪えていた。
「白夜……ごめ、ごめんな……。俺、こんなにしてもらってんのに……勝手なことばっか……」
「俺も――同じだ」
「……え?」
「お前だけじゃねえ。俺も――苦しいよ」
「……白夜……?」
「俺は今まで好き勝手にやり過ぎた。学園でもしょっちゅう問題起こしちゃ、両親や真田にも散々迷惑掛けてきた。犯罪まがいのことだって平気でしてきた――。お前のことも……粟津に事情を聞いてお前に再会してから、どんどん惹かれてったのは否定しねえよ。お前を辛い目に遭わせたくない、守ってやりてえって思ってるのも本当だ」
「白夜……」
背中に氷川の温もりを感じながら、冰は驚きに瞳を見開いた。
今、確かに氷川は『お前に惹かれている』と言った。はっきりとそう言った。その言葉を聞いて、ドキドキと急激に心臓が高鳴り出す――
「けどよ、冰――。こないだも言ったが、俺はお前に気持ちを打ち明けるられるような資格はねえって思ってんだ……。お前みてえな綺麗で純粋な奴に俺なんてクズ野郎は釣り合わねえ……。イキがって、悪りィことばっかして、褒められるところなんざこれっぽっちもねえ。どんなにお前に惹かれてようが、諦めなきゃいけねんだって……」
「それって……やっぱりあの……一之宮君のこと……?」
「――!」
「こないだ言ってたろ……一之宮君に酷いことをしたから……って。それが引っ掛かってるのか? それとも白夜は……あの人のことが……その、好きなのか?」
ついぞ一番訊きたいことが口をついて出てしまった。
氷川は切なげに苦笑しつつ、冰の髪を撫でながら言った。
「そうじゃねえ。一之宮にしたことは――本当に後悔してる。悔いても悔いきれねえくらい。逆に言うなら、本気であいつのことが好きであんなことをしたんなら、まだマシだったのかも知れない。けど、俺は単にあいつをねじ伏せたい、番格としてあいつの上に立ちてえってだけであんなことをしちまった……。それだけじゃねえ。お前と出会う前も――ただの好奇心や遊びで女と寝たこともある。好きでも何でもねえ女と……だ」
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