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第207話

 言葉などでは到底表し切れない、身体中が燃えるような高揚感と身震いするような幸福感――これが愛するということなのだろうか。  愛しくて愛しくて、どうしようもない。今、この手の中にあるものを絶対に手放したくはない。氷川も冰も、本能の求めるまま互いを求め合った。  手順がどうとか、上手いとか下手とか、クールだとか経験豊富だとか、そんなことはどうでもいい。ただ目の前にある愛しさに触れたくて感じたくて仕方がない。組んず解れつといったように貪り合い、長い長いキスを繰り返す。互いの熱でしっとりと汗ばみ、掛け布団が湿るくらいにもつれ合う中で冰が言った。 「ねえ、白夜……俺、俺さ……」  冰は氷川の手を取ると、布団の中へと突っ込み、熱でうなされた自身の雄を押し当てた。 「すっげ……ヘンだろ……? 何か……ジクジクして……どうにかなっちまいそ……なんだ」  はにかみながらも頬を染めて、大真面目にそんなことを言い出した様子に、氷川は瞳をパチクリとさせてしまった。 「冰――お前……」 「アンタの手が……その、コレに触れてると思うと……そんだけでもっと……おかしくなりそ」 「えっと、冰よ――お前、その……なんだ。この前キスも初めてとか言ってたのは知ってっけど……その、こんくらいはヤったこと……ねえわきゃねえよな?」 「……何……を?」 「や、何ってその……マスベとか……するだろ?」 「マスベ……?」  とろけた瞳で見上げながら訊いてくる。その表情がとてつもない色香を放っていて、氷川はガラにもなく顔から火を噴きそうなくらい真っ赤に頬を染めてしまった。 「や、だから……自分でするだろ? こうやって……よ?」  冰に掴まれたままの掌で彼の熱を握り締めて、クイクイと上下に擦り上げる。すると、 「……っあ……ぁ!」  ギュっと瞳を(つむ)って、堪え切れないといったふうな嬌声が漏れ出した。それだけでも氷川にとっては心臓のド真ん中を何かでブチ抜かれたような衝撃だったが、 「ああ、うん……マスターベーションのことか? ん、するよ。俺だって……その、一応健全な高校男子なわけだし……。回数はそんなにしょっちゅうってわけじゃねえけど……する時はいつも……アンタのこと考えながら……するんだ」  冰の口から飛び出したとんでもない告白に、氷川は心臓が飛び出るんじゃないかというくらい驚かされてしまった。  正直なところ、この冰よりは自分の方が経験値だけでいうなら格段に上だと思っていたのだが、とんでもないことだ。かえって、何も知らない純真無垢が(ゆえ)の大胆過ぎる彼に目眩(めまい)がしそうだった。 「お……前って……それ、わざと……なわきゃねえよな……」  冰がわざと気を引く為にこんなことを言うはずもない。彼の表情を見れば至って真面目だ。無論、恥ずかしそうにはしているものの、これが素直な彼の本心なのだ思うと、ますます堪らない気持ちにさせられてしまった。

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