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第208話

「……ッ! 冰、お前って……ヤツは……」  悪魔だぜ――!  何も知らない純真無垢な小悪魔――  氷川は本当に目眩がしそうなくらい沸騰状態に陥ってしまった。 「……ったく! 俺、すげえ心配になってきたぜ……」 「心配……? 俺、やっぱどっかおかしい……のか?」 「や、そうじゃなくてよ……。つか、も、いい――」  氷川は既にそそり勃っている自らの雄を、冰のそれと抱き合わせるように絡め合わせると、腕の中の彼を思い切り引き寄せた。 「俺も同じ――マスベ……する時、お前のこと考えた」彼の髪に唇を押し当てながら言う。 「……白夜、なあ……触ってい? アンタの……」  冰がおずおずと布団の中で手探りをしている。 「……すっげ、でっけ……俺の倍くらいありそう……!」 「――――! や、……倍はねえだろ……。つか、お前……」 (マジで直球――!)  氷川はタジタジだ。  本来、リードするはずが、どんどん冰の意表をついたペースに巻き込まれていっている気がする。だが、それもまた新鮮で、欲情と好奇が入り混じったような、どうにも堪らない幸福感に身悶えるようだった。  そんな氷川の気持ちを更に煽るようなことを冰が呟く。 「な、白夜……。こんなでっけーの、俺ン中にちゃんと入るのかな……? 俺も何だか心配ンなってきた」 「は……!?」 (そりゃ、お前、”心配”の意味が違うってのよ――) 「俺さ、ネットで結構調べたんだ。セックスのやり方……っていうの? けど、正直よく分かんなくて……。俺の方も準備しなきゃなんねえこととか……その、色々あるんだろ?」 「…………」  冰のあまりの率直さに、氷川の方はタジタジを通り越して唖然状態だ。すぐには相槌も返せずに、鳩が豆鉄砲を食らったような表情で目の前の愛しい男を見つめる。 ――が、冰の方は存外大真面目なようだ。頬は染めつつも、心底真剣に言っているというのが分かる。  そんな様子を見ている内に、氷川はハタとあることに気が付いた。もしかしたら冰は、愛人にさせられるかも知れないと聞かされた時から、たった一人で手探りながらも情報を集めていたのかも知れないと思ったのだ。  男が男に抱かれるということを、彼なりに知っておきたかったのだろう。あまりにも純朴で、懸命な彼が不憫にも思えると共に、言いようのない愛しさがこみ上げる。氷川は本当にもう堪らない気持ちにさせられてしまった。  再び彼を腕の中に包み込み、持てる気持ちの全てを捧げるように愛しい男を抱き締めた。強く強く抱き締めた。 「冰、何も心配するな。セックスのやり方なんてもんは……お前はなんも考えなくていい。全部俺に任せればいい。俺はお前に辛え思いや痛え思いなんてのは……」  ぜってえさせねえから――!  そんな想いが伝わったのだろうか、氷川の腕の中で冰はコクコクと頷いた。その瞳にはうっすらと涙が滲んでもいるようで、時折部屋の灯りが反射して濡れて光る。 「冰――好きだぜ」 「……白……夜、うん。俺も……好き……」 「――放さねえ。誰にも、何処にもやらねえ……。お前に辛え思いなんて――ぜってえさせねえ……!」    どちらからともなく再び唇を重ね合い、指と指とを絡め合い、肌と肌とを触れ合わせ――二人は、何ものにも代え難いこの愛しい絆が、今、互いの目の前にしっかりとあることを確かめ合うように固く固く抱き合って眠ったのだった。 ◇    ◇    ◇

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