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第211話

「順繰りって――つか、お前らも何で黙って見てんだよ。後藤は三度目ってのは本当なのか?」  氷川も、まるで当たり前のように相槌を返す。四面楚歌にされていたことなどまるで責めずに普通そのものだ。すると、彼らは安堵したような表情で、氷川の問い掛けに応じ始めた。 「そりゃ、俺らだって助けてやりてえとは思うけどよ……」 「あいつら、ちょっと普通じゃねえっつか……」 「後で何されっか……分かんねえし」  誰からともなしにボソボソと口走る。まるで氷川に助けて欲しい、何とかして欲しいと訴えるような調子でいる。気付けば、ほぼクラスの全員が氷川の周囲に集まった状態になっていた。 「普通じゃねえってどういうことだ」  氷川の問いに、停学前は比較的仲の良かった数人が次々と近況をしゃべり出した。 「……何つーか、あいつら……やることが常軌を逸してるっつか……」 「後藤と同じようにパシリにされてるヤツがさ……もう金無えから勘弁してくれって言ったらしいんだわ。そしたら……放課後に呼び出されてフクロにされ掛かったらしいんだけど……」 「そのやり方が……な。木刀かなんかで殴られたとかで……正直怖えっつか……」  彼らの言うには、比較的おとなしそうな者や金回りが良さそうな者たちをターゲットにして、カツアゲやら憂さ晴らしやら、好き放題らしい。  だが、氷川の知る限り、今まで桃陵内でそういったことが横行していた記憶はない。先程の不良連中は、これまでも確かにあまり感じのいいグループではなかったし、廊下などですれ違えばガンを付けられたりした者もあったようだが、実質的な被害を受けたなどとは聞いたことがない。では何故急に頭角を現わし始めたというわけなのか――氷川はその理由に首を傾げさせられる思いでいた。 「あいつらが悪さを始めたってのはいつからなんだ?」  氷川は二週間の間、停学を食らっていたので詳しい事の成り行きが分からない。すると、皆は口を揃えてこう言った。 「お前が停学ンなって割とすぐの頃からだったよ」 「今まではお前がいたから抑えが効いてたんだと思うよ。けど……お前が来なくなった途端に、手枷足枷が外れたって調子でデケエ面し始まったんだよ」 「氷川はさ、うちの頭だって言われて恐れられてもいたけどさ……パシリにしたりカツアゲしたり、そういう汚えことはしなかったじゃん。けど、あいつらは違う……」 「情けねえけど、正直なこと言っちまうとさ……明日は我が身になるのが怖えっつか……」  つまり、後藤のように絡まれている者を助けてやりたくても、その後の報復が怖くて見て見ぬふりをせざるを得なかったのだという。

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