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第217話

 そんな空気を薙ぎ払うかのように早瀬は氷川に向かってがなり立てた。 「指図してんじゃねえよ! こいつに手出されたくなかったら、今すぐここで土下座しろ!」  床に溜まった土埃を撒き散らす勢いで蹴り上げて、仲間に拘束させている後藤の胸倉を掴み上げる。 「おら! 早くしねえかっ! てめえ、土下座は得意なんだろ!? 何せ……四天の一之宮に頭下げたってくれえだしなっ!」  できないというなら、本当にこの後藤をボコボコにしてやってもいいんだぜとばかり、これ見よがしに彼の髪を掴み上げては突き放したりを繰り返す。後藤の方は、当然こういった対峙にも慣れていないのだろう、脅される度に、「ひぃッ!」という涙まじりの声を上げてはガタガタと震えている。  致し方なくか、氷川は無言のまま、ゆっくりとその場で膝を折って正座の姿勢を取った。 「ほーお? 随分素直じゃん!」  その場の皆が驚き顔の中、実に一等驚いたのは早瀬だったかも知れない。信じられないといった表情で、しばし硬直するも、次第に下卑た笑みを浮かべ始める―― 「へえ? まさかコイツの為に本当に土下座するとはね?」  如何(いか)に人質がいるといえども、この氷川のことだ。もしかしたらこの場で全員ブチのめされるなんていうことも考えられなくはない。早瀬はそんなふうに思ってもいたのだろう。  それが、ブチのめすどころか言われるまま素直に従っている。さすがの氷川でもこの人数を相手取っては勝てないと踏んだに違いない――そんなふうに読んだのか、早瀬はみるみると上機嫌になり、調子付いていった。  桃陵学園に入ってからこのかた、目障りで仕方なかった氷川が今、目の前で無様な格好でいる。早瀬はこれ好機と、先ずはその肩先目掛けて足蹴りを繰り出した。 「おら! 何、ツラ上げてんだって! 土下座だ、土下座っ! 床に手ぇ付いて頭下げろっての!」  怒鳴り散らしながら、今度は逆側の肩先を蹴り飛ばす。だが、結構な力を入れたにも係わらず、氷川の姿勢は大して崩れない。加えて言うなら、表情さえ変えない。  かといって反撃に出ようともせずに、ただただおとなしく正座の姿勢のまま動こうともしない。そんな氷川に、焦燥感が半端なく煽られる――  恐怖に苛立ちを煽られてか、 「クソッ! どこまで図太てえ野郎だよ! 構うこたあねえ、全員で畳んじまえ!」  早瀬は仲間にも参戦させると、全員で氷川を取り囲んで、方々から袋叩きにし始めた。  さすがの氷川も全方向から蹴りを食らえば、全く姿勢を崩さないというわけにもいかない。蹴られた勢いで身体が前後左右に振られはするが、それでも尚、表情ひとつ変えずに未だ土下座の姿勢を崩さずにいた。 「くそっ……! マジしぶてえ野郎だな!」 「なあ、……せっかくだからさ。コレでやんねえ?」  焦れた誰かが(つい)ぞ木刀を持ち出した。

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