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第225話

 邸に帰ると、執事の真田が慌てたようにして氷川を出迎えた。 「坊ちゃま! まあまあ……何たること!」  真田は瞳をグリグリとさせながら、オロオロ大騒ぎである。見送りに付いてきた春日野から先に電話で事情を聞かされていたので、事の経緯は分かっていたのだが、実際に怪我の状態を目の当たりにして、酷く動揺した様子であった。 「氷川先輩はご立派でした。クラスメイトの方は先輩のお陰で無傷です。その方は喧嘩などに慣れていないおとなしい感じの方だったので、氷川先輩に助けられてどれ程救われたか分かりません」  春日野が真田を落ち着けようとして、そう付け足した。 「まあ……! まあ、そうでございましたか……。春日野様にもたいへんなご迷惑をお掛けしてしまったようで……本当にすみませんです」 「いえ――。どうかごゆっくり休ませて差し上げてください。それと、これは痛み止め等の飲み薬です」  春日野から薬を受け取った真田は恐縮しきりである。この御礼は後程改めて――としながら、丁寧に春日野親子を見送ったのだった。  その後、春日野らが帰ると同時に、入れ違いのようにして冰も帰宅したので、またもやの大騒ぎとなった。 「白夜……!? どうしたんだ、その怪我……」  冰は、一目氷川を見るなり、自身の叔父がここを嗅ぎ付けてやって来たのかと思ってしまったようだった。  もしかして叔父が暴力をふるったのだろうかと、瞬時に蒼白となって血の気が失せたように硬直している。 「まさか……俺の叔父が……?」  驚愕の様子でうろたえる冰に、 「いえ、そうではございません! 実は坊ちゃまは――」真田が事の次第を説明する。  真田の方も、まるで何か話してでもいないといられないといった調子で、大わらわである。先程帰った春日野からの説明で経緯は理解したものの、とにかく酷い怪我の様子に真田が嘆く嘆く――で、氷川もタジタジとさせられてしまった。 「まったく……! 坊ちゃまはわたくしを殺す気ですか! こんなお姿で帰っていらして……心臓がいくつあっても足りやしませんよ!」  小言を言いながらも、せっせと身の回りの世話を焼き、一先ずは部屋まで連れ添っていく。 「お夕食は消化の良いものをご用意しましょうね。ダイニングに降りていらっしゃるのはお辛いでしょうし、お部屋に運ばせましょう。雪吹のお坊ちゃまも今夜はお部屋でご一緒にお夕食を摂っていただいてもよろしいでしょうか?」 「え、ええ、勿論です!」  一通り世話を焼き終えた真田が下がっていくと、冰は逸ったように氷川の傍へと駆け寄った。

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