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第227話 揺るぎない愛の絆
雪吹冰が氷川の邸で暮らすようになってから一週間が経とうとしていた。
その間、いろいろとあったものの、氷川と想いを通わせ合うことができ、冰は生まれて初めて知る甘やかな気持ちを大切に育みながら日々を送っていた。
倒産寸前の雪吹財閥が経営する社の問題も、親友の粟津帝斗の助力によって、無事に粟津財閥の傘下に入る準備が進められていた。国内はおろか、海外でも名を馳せる程の粟津家の力は強大で、すべてがつつがなく進行していく。
まだ学生の身分の冰には、様々及ばないことだらけであったが、吸収される雪吹の株主や社員たちにも苦難が降り掛からぬようにと、細かな心配りで対応してくれる粟津家には感謝をしてもしきれない思いであった。
そんな中、一番の気掛かりであったのは、冰の父親が倒れてからすぐに後継を名乗り出た叔父という男の存在であった。
そもそも雪吹財閥が傾いてしまった原因は、この叔父にあるわけだから、粟津が雪吹を吸収すると同時に、当然の如く彼は代表取締役の座を追われることが明白だった。
故に現在、叔父にとってはたいへんな苦境であるわけだし、プライドもズタズタのはずであろう。何より金銭面でも苦労しているのは目に見えている。
当初、この叔父という男は、粟津ではなく自らの知り合いである川西不動産という会社の社長に援助を願い出ていた。その代償として甥の冰を川西の愛人に差し出すという、とんでもない約束をしていたのだ。冰自身も社を救う為なら仕方がないと覚悟を決めていたものの、親友である粟津帝斗をはじめ、自らが想いを寄せる氷川の助力によって窮地を逃れたといったところだった。
表向きは倒産も免れたことだし、もう冰が愛人になる必要はなくなったわけだが、冰の叔父にとっては全てが思い通りにいかなくなったことも事実である。個人的に川西不動産の社長に冰を売ってしまえば、大金が手に入る――叔父がそう考えるのは必須だった。
無論のこと、粟津家の帝斗も、そして氷川もそれを警戒していて、冰を守る為に出来得る限りの対策を練ってもいた。冰が氷川邸で暮らすことになったのも、学園への送迎を粟津家の運転手である佐竹が行うことになったのもその為である。
また、冰の通う楼蘭学園にも、ある程度の事情を話すことにした。万が一叔父が学園を訪ねることがあっても、冰には会わせずに、すぐに粟津財閥に知らせて欲しいと頼んでおいた。
こうして、万全の体制で皆で冰を守らんと頑張っていたのだった。
その甲斐あってか、財閥吸収後、しばらくの間は平穏無事に過ぎていった。氷川らが危惧していたような、叔父が冰を取り戻しに訪ねて来ることもなかったし、電話連絡すら一度も来ないままで、ひと月が過ぎようとしていた。
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