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第228話
そんな中、事態が急変を迎えたのは梅雨半ば――夏の気配が見え始めた時期であった。
冰の氷川邸での生活もすっかりと慣れ親しんだ日常となり、危惧していた叔父からの連絡もない中で、氷川も、そして粟津家の帝斗も安堵の気持ちを色濃くし始めていた頃だった。
授業が終わった放課後、駅前の繁華街に差し掛かった氷川を待ち受けていたのは、逸った表情の粟津帝斗だった。
「氷川君! 良かった。今、キミを迎えに桃陵学園に向かおうと思っていたところだ」
側付きである綾乃木の運転する車から飛び降りた帝斗が、氷川の元へと駆け寄ってきた。その尋常ならぬ様子から、氷川も瞬時に焦燥感に襲われる――
「粟津! どうした、何かあったのか!?」
「ああ――。今さっき、うちの佐竹さんから電話があって……冰と連絡が取れなくなってしまったそうなんだ」
佐竹からの連絡では、楼蘭学園の校門前でいつものように冰を待っていたのだが、時間になっても彼が出て来ない。携帯に電話をするも通じないのを不安に思い、校門付近にいる学生や職員にも訊いてみたのだが、誰も冰を見ていないという。仕方がないので校内放送を頼み、手分けして皆にも捜してもらったのだが、結局会えずじまいのままだということで、帝斗の所へ連絡を入れたというのだ。
「今も佐竹さんには楼蘭学園に残ってもらって、冰を捜してもらってる。冰の友人も先生方も総出で手伝ってもらっているんだが、まだ何とも……。念の為、氷川君のお宅の真田さんにも連絡を入れさせてもらったんだけど、お邸にも帰っていないし、連絡もないとのことだった」
つまりは冰が行方不明になってしまったということだ。
「まさか……あいつの叔父貴の仕業か……!?」
氷川は蒼白となった。
「まだそうと決めつけることはできないけれど……可能性はないとも言い切れない」
だが、もしも叔父が冰をさらったというのであれば、一体どうやって冰とコンタクトを取ったというのだろう。送迎時を狙われたわけでもないし、氷川邸に押し掛けられたわけでもない。冰の通う楼蘭学園はセキュリティも厳しく管理された進学校である。富豪の子息が通うとしても有名な故に、部外者が簡単に出入りすることはできないはずである。
氷川と帝斗が迷いあぐねていると、運転手の佐竹から帝斗の携帯へと電話が入った。
『大変です、坊ちゃま! 雪吹の坊ちゃまが不審な男たちと一緒にいるのを見たというご学友がいらっしゃいました!』
それは昼休みが終わり、午後の授業の予鈴が鳴った頃のことだったという。冰とは直接の面識はなかったらしいが、下級生の数人が冰の顔を覚えていて、彼が強面の男二人と話しているのを見掛けたらしい。あまりガラの良くない風貌の二人だったが、どうみても学生ではないので、何だろうと皆で噂していたとのことだった。
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