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第229話

「クソ……ッ! やられた――」  瞬時に険しく表情を歪めた氷川は、そう吐き捨てると同時に蒼白となった。 「冰のGPSが反応しねえ! ヤツら、携帯を切りやがったんだ」 「居場所が掴めないってことか?」 「ああ……、だが行き先恐らくあそこだ……。川西ってヤツは自宅から十キロの所に別邸を持っているんだ。ヤツが海外出張から帰国してからこの一ヶ月の間に、何度か行き来している」 「別邸だって!? つまり……それは……」  どういうことだい――といったふうに帝斗が眉根を寄せながら尋ねる。 「その別邸で冰を囲うつもりなんだろう。自宅じゃさすがにまずいってことだ」 「氷川君、キミ……何でそんなことまで」  川西についてやけに詳しく事情を知っていそうな氷川に、帝斗が逸った表情で食いつく。 「俺はこの一ヶ月、川西についての情報を集めてきたんだ。ヤツが通じてるっていう裏社会の連中が動いているらしいことも耳にしている。おそらく川西はその連中を使って冰を拉致したに違いねえ……」  セキュリティの厳しい楼蘭学園に潜入できるとしたら、そういった方法しかないだろう。氷川は早口でそれだけ説明すると、一目散といった調子でその場から駆け出した。 「ちょっ……氷川君! 何処へ行くんだっ!?」  帝斗が大声で叫ぶと、氷川は走りながら振り返った。 「俺は川西の別邸へ向かう! 念の為だ、お前はあいつの叔父貴の方から当たってくれ!」  氷川はそう言い残すと、すぐさまタクシーを拾って走り去ってしまった。  と、そこへ、車を駐車スペースに入れ終えた綾乃木がやって来た。 「天音さん! 大変だ。氷川君がたった一人で川西の所へ向かってしまった!」 「何だって!?」 「冰が連れ込まれるとしたら川西の別邸じゃないかと言っていた! 僕らには冰の叔父様の方を当たってくれって言って、たった今タクシーに……」 「何てこった!」  綾乃木も、咄嗟にどちらへ行くべきかと眉をしかめる。 「氷川君はこの一ヶ月で川西の動向を探っていたらしい。ヤクザを使って冰を誘拐されたと確信しているようだ」  帝斗は綾乃木に説明しながら、冰の叔父の携帯電話の位置を突き止めようと、手元のタブレットを操作する。 「ダメだ……! 叔父様も電源を切っている」  現在、冰の叔父は社長代理の座を追われているので、職に就いてはいない状況だ。この叔父という男の動向については、帝斗らも気を付けて探りを入れていたのだが、就職もせず、起業するでもなしで、ブラブラとしているだけのようだった。 「叔父様に連絡が付かない以上、氷川君の後を追った方が良いだろうね。天音さん、悪いんだけど車を回してくれる? 僕はその間に父にこのことを伝えて応援を頼むよ」 「分かった!」  そうして綾乃木が車を取りに走り去った直後であった。 「おい、あんた――白帝の粟津だろ?」  突如、後方から声を掛けられて振り返ると、そこには見覚えのある男が、彼の仲間らしき数人の男たちと共に怪訝そうな顔付きで立っていた。

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