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第232話

 帝斗が答えると、剛と京が「うへぇ」と苦そうな表情で眉をしかめた。 「あの兄ちゃん、売り飛ばされちまうのかよ」 「けど、何で? そりゃイケメンにゃ違いねえけどさ、野郎を愛人にするってどうよ」 「バカッ! 今、粟津が両刀の色情狂だっつってたじゃん!」 「あ、ああ……そうか」  世の中、様々なヤツがいるもんだとばかりに、二人はタジタジとした調子で肩を竦めている。  と、黒髪の男が再び口を開いた。 「それで――あんたの友人の冰ってヤツは、氷川のダチでもあるってわけか?」  先程、氷川は血相を変えて――といった調子でタクシーに乗り込んで行った。あの様子から察するに、余程の親友か何かなのだろうかと思ったわけだ。 「氷川君は確かに冰の友人でもある……。だけど……」 「――それだけじゃねえってことか?」  黒髪の男の問いに、帝斗はじっと彼を見つめた。目と目をしっかりと合わせて、それはまるでこの男の本質を見極めたいというふうでもあり、真剣そのものだ。  しばしの後、帝斗は男の腕を引っ張ると、彼にだけ囁くかのように小声で耳打ちをした。 「氷川君にとって、冰は大切な相手だ。おそらくこの世で一番――」  それを聞くと、男は僅か驚いたように瞳を見開き、帝斗を見つめた。 「キミに嘘は通用しない。そんな気がしたから本当のことを打ち明けた」  口元に薄い笑みを浮かべて帝斗がそう言うと、男の方もそれに答えるように軽く頷いてみせた。そして、ポケットから携帯電話を取り出すと、その場にいた皆が驚くようなことを口にした。 「(げん)さん、俺だ。これから知り合いの庭園の除草作業をすることになった。庭を掘らなきゃならねえかも知れないんで、悪いが掘削機に除草剤――栄養剤も必要だな。それから人夫を少々回してくれ。ああ、俺は今、駅前だ。よろしく頼む」  男はトンチンカンなことをしゃべくると、そのまま電話を切り、帝斗に向かって酷く真面目な顔でこう言った。 「あんたは家にでも帰って待っていろ。念の為、その冰ってヤツとあんたの連絡先を教えてくれ」 「え……ああ、えっと……その……」  さすがの帝斗もワケが分からずといった調子で戸惑いを隠せない。そんな様子を他所に、男は紫月に向かって、 「紫月、お前も剛たちと一緒に先に帰ってろ」そう言った。  戸惑い、驚いたのは帝斗だけではない。紫月も剛も京も、唖然としたように瞳をパチクリとさせている。 「や、ちょい待ちって! 遼二、お前……今から草刈りって……」 「……何? どゆこと?」  剛と京が不思議顔でそう尋ねると、遼二と呼ばれた黒髪の男は薄く口角を上げながら苦笑した。 「氷川一人じゃ刈り切れねえだろうからな――」  ポツリとそれだけ言うと、タイミングの良過ぎるくらいに現れた一台の車に乗り込んで、この場を去って行ってしまった。

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