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第233話

「ちょ……何?」 「遼二のヤツ、ワケの分かんねえこと抜かしやがって……」 「つか、あいつ、何処行ったわけ?」 「それ以前にあの車は何よ!? (げん)さんって誰?」  剛と京が大わらわで興奮状態に陥っている。互いに突っ付き合ったりしながら、ギャアギャアと大騒ぎ状態だ。その横で、紫月だけが若干焦燥感に見舞われたような表情で、小さな舌打ちをしたのだった。 「……ッ、遼のヤツったら……」 「あの……一之宮君……? 彼、遼二君っていうのかい?」 「え? あ、ああ――鐘崎遼二ってんだ。ヤツは俺の……」 「キミの……?」 「いや、俺らのダチだ」 「鐘崎君か――。彼は一体……」 「……多分、氷川の応援に向かったんだろ?」 「応援!? 何で……彼が?」  それは恐らく――先程の会話からヤクザ絡みだと知った故、氷川一人で冰を取り戻すのは無理だと踏んだからであろう。鐘崎はそんなことをひと言だって口にしたわけではないが、紫月にはその真意が分かっていた。先程鐘崎が言っていた除草作業というのも、いわば造語なのだろう。人の多い街中で、あまり物騒なことを口にできない時に、彼ら同士で使う通信手段なのであろうことも紫月には理解できていた。  余談だが、剛と京には未だ鐘崎の素性を明かしてはいない。彼が香港マフィアの頭領の養子だということも、彼の実父が裏社会で凄腕の始末屋として活動していることも――無論だ。  紫月は鐘崎の恋人である。二人の関係も未だ剛らには内密にしている。だから紫月だけが、鐘崎が氷川の助力に向かったのだろうことを確信していたのだった。 ――と、ちょうどそこへ車を取りに行っていた綾乃木が戻って来た。 「あ、それじゃ僕はこれで――! キミたち、色々とすまなかったね」  帝斗はそう言って綾乃木の車に乗り込む――。 「ちょい待ち! 待ってくれ!」  咄嗟に引き留めたのは紫月だった。 「粟津……悪いんだが、俺も一緒に乗せてってくんねえ?」  車に掛け寄り、窓を叩いて開けさせると、紫月は真剣な表情でそう言った。 「え――!? 一之宮君……キミまで……」 「あいつが……心配なんだ」 「……あ……いつ?」 「ああ――頼む」  紫月の真剣な様子に思うところがあったのか、帝斗はコクリと頷くと、「天音さん、後ろ開けてあげて」そう言いながら意味ありげに口角を上げた。  紫月が後部座席に乗り込むと同時に、剛と京が慌てたようにして車まで駆け寄った。 「おいおいおいおい! 紫月まで何処行くんだって!」 「つか、展開めちゃくちゃじゃね!? 俺ら、どうすりゃいんだって!」  そんな彼らに向かい、既に走り出した車の窓から顔を出すと、「悪りィ! 後でちゃんと報告すっから! おめえらは先帰っててくれ!」紫月の叫び声と共に、三人を乗せた車は走り去っていったのだった。 ◇    ◇    ◇

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